不眠症の治療法


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 大韓民国をむしばむ低成長基調の中でも好況を誇る分野がある。“睡眠産業”だ。国民健康保険公団によると、昨年、睡眠障害で病院を訪ねた患者は45万5900人に達した。2011年の28万9500人と比べると57%も急増した。

 市場はすぐに反応する。睡眠クリニックを増やすのは大型病院だけでなく、一般の医院も積極的だ。オン・オフラインで寝具、アロマセラピーなど、睡眠関連商品が続々と登場している。

 さらに、国際学会では睡眠と生産性の関係に光を当てる「睡眠経済学」が注目を集めている。睡眠障害の治療剤が国内外で脚光を受けるのは言うまでもない…。

 症状は多様だ。ただ眠れないだけなら不眠症だ。いびきなどで睡眠が困難なら睡眠時無呼吸症。夜の睡眠は比較的十分にとっても昼に眠ければ過眠症、脚の不具合で十分に眠れなければ下肢静止不能症候群だ。主要な症状だけで約80種類にもなる。

 食事だけでなく睡眠も薬だ。世界150カ国の1万5000人を対象にした米ギャロップの50年間の研究をもとに幸福な生活の秘訣(ひけつ)をアドバイスする『ウェルビーイング・ファインダー』(日本語訳書名『幸福の習慣』)の共同著者トム・ラスとジム・ハーターは睡眠を「あなたの1日を再稼働させるボタン」と定義する。成人なら1日7~8時間よく眠れば健康な1日が保証されるというのだ。青少年はもっと多く、乳幼児はさらに多く眠らなければならない。

 他ならぬ私が慢性不眠症で苦しんでいるとしよう。どうすればいいか。睡眠剤のような薬物の服用に依存しがちだ。しかし、不眠を誘発する認識と習慣を正す認知行動療法の方がいいと、国内外の専門家が勧めている。米国内科学会が最近発表した「慢性不眠症管理ガイドライン」も最初の治療法として認知行動療法を勧めている。眠れないからと薬を飲めばいいわけではないのだ。

 認知行動療法は2007年に国内にも入ってきた。しかし、睡眠剤を好む患者が多く、実効はあがっていない。近ごろ自作としてきた絵画の「代作疑惑」に巻き込まれた歌手の趙英男氏も、医師が処方した睡眠剤を飲んでやっと眠りにつけるようだ。もどかしいことだ。自分の体と心の問題を錠剤で解決しようという単細胞的な発想から脱しなければならない。かえって副作用だけが大きくなりやすい。薬はすなわち毒だ。常識ではないか。錠剤で幸福や平穏を得られる世の中はない。映画『マトリックス』にはあるかもしれないが。

 (5月31日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。