北の核は2020年までに倍加


北朝鮮核の脅威

米ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院・米韓研究所副所長
ジェニー・タウン氏

真剣な外交努力なされず

 北朝鮮の国営メディアは3月9日、小型化された核兵器と再突入体を視察する金正恩第1書記の写真を公表した。専門家らは、北朝鮮は小型化技術を保有していると考えてきたが、この写真が公表されたことで、それに対する否定的な見方は静まり、北朝鮮が大量破壊兵器(WMD)への野望を持っていることが事実かつ深刻であり、脅威が高まっていることを改めて世界に示した。

ジェニー・タウン

ジェニー・タウン ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院・米韓研究所の副所長で、北朝鮮問題に関するウェブ誌「38ノース」の編集長兼制作者。

 ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院の米韓研究所は2015年に、高まる北朝鮮の核の脅威に関する研究を1年にわたって行った。「北朝鮮の核の未来」と題するこの研究では、現在の北朝鮮のWMD関連技術を評価し、開発計画が20年までにどこまで進むかを低中高レベルのシナリオに分けて予測した。

 予測によると、北朝鮮は、最も厳しい条件下でも、5年間で核兵器の量を倍加させるとなっている。緩やかな条件の下では、予想される核兵器の量は、運搬システムの開発とともに、急激に増加し、中レベルのシナリオでは核兵器50発まで、高レベルのシナリオでは最大100発を保有するようになる。

 北朝鮮に対して国際的、一方的な制裁強化の取り組みがなされているにもかかわらず、米国など関係国では、北朝鮮の核への野望に対処するための真剣な外交努力がなされず、暗黙のうちに北朝鮮にWMD開発の継続を認めるというメッセージを送っている。核への野望は最近始まったものではなく、開発のペースは、金正恩第1書記の下でさらに加速されている。このわずか数年の間に、東倉里衛星発射場に大規模な改修が施され、大型のロケットが打ち上げられるよう発射塔を高くし、高度な組み立て装置が作られ、鉄道の支線の終端を覆い隠すような、隠蔽(いんぺい)施設も改善された。発射と試験の準備を隠蔽するための発射台とエンジン試験台を覆う構造物も新たに設置された。豊渓里にある核実験場では、北側坑道入り口で掘削が続けられている。豊渓里では、2009年、13年、16年に核実験が行われた。新しい西側坑道入り口で掘削が始まり、北と南の坑道入り口それぞれの主要支援施設でもそれに合わせた活動が進められている。さらに、新しい型の新浦級弾道ミサイル潜水艦を建造した。新浦南造船所に係留され、潜水艦発射弾道ミサイルの試射を開始した。

 北朝鮮はさらに、核分裂性物質の生産能力も高めている。13年にはプルトニウム生産のために5000㌔㍗の原子炉を再稼働させた。フル稼働させれば、1年間で最大6㌔のプルトニウムを生産できる。核爆弾1個が作れる量だ。また、ウラン濃縮施設の遠心分離場の広さを2倍にした。

 今年に入ってすでに、核実験を再開した。水素爆弾の技術を持っていると主張し、今後も実験を行うと警告した。衛星発射を再開し、小型化した核兵器のデザインを公開、再突入体の風洞実験を開始し、固体燃料ロケットエンジンの試験を実施した。

 このような状況は、大きな懸念材料ではあるが、北朝鮮がこれまで進んできた道を見れば、驚くべきことではない。WMD技術が進めば、核戦略も変わっていく。低レベルのシナリオでも、核兵器の量は倍加し、運搬手段もいくらか改善されるため、北朝鮮の抑止力は強化され、米国の核攻撃に対する報復の確証性は高まる。核兵器が増えれば、報復の確証性は高まり、さらに大胆になって、戦術核などほかの核開発の道を模索するようになる可能性もある。核兵器による先制攻撃で脅しをかけてくることも考えられる。今まさに、そうなろうとしている。

 北朝鮮のWMD能力が強まれば、核兵器開発計画を遅らせたり、停止させるための外交による解決も難しくなる。かといって、放っておいて自然に解決するものでないことはすでに何度も経験してきたことだ。制裁によって圧力を強化しても解決には向かわない。真剣な外交努力を続けることはいっそう困難になるとみられ、北朝鮮の脅威は当面は強まり続ける。

 (この記事は、米紙ワシントン・タイムズに3月31日に掲載された特集「北朝鮮の核の脅威-評価、世界の反応と解決」に寄稿されたものです)