韓国は北の真意見極め対話を


 北朝鮮が一方的に高めた軍事的緊張の解消に向けた韓国と北朝鮮による高官協議が、6項目の合意事項を発表し妥結した。これでひとまず南北間の軍事衝突など最悪の事態は回避される見通しとなり、断絶していた対話の糸口を見いだしたことは幸いだ。韓国は北朝鮮の真意を見極め、懸案解決へ対話に臨まねばなるまい。

 北主語とする遺憾表明

 今回の協議は、今月初めに軍事境界線の韓国側で北朝鮮が敷設したとみられる地雷が爆発し、韓国軍兵士が大けがをした事件を発端に南北間の緊張が高まる中、北朝鮮が申し入れてきたものだ。

 地雷爆発の報復として、韓国は11年ぶりに対北宣伝放送を再開。北朝鮮は反発して放送用大型スピーカーの近くに砲撃を加え、「準戦時態勢」を宣言して保有潜水艦の約7割が基地を出るなど挑発をエスカレートさせる一方、対話の意思も表明していた。朴槿恵政権を揺さぶり自分たちのペースに巻き込もうという北朝鮮お得意の手法だ。

 北朝鮮は当初、地雷事件について韓国側の「自作自演」と強弁していたが、自ら緊張を高めておいて対話を持ち掛けることこそ立派な「自作自演」と言わねばならない。

 協議は3日間に及ぶ異例の長丁場となった。地雷事件に対する謝罪を拒否する北朝鮮から譲歩を引き出すのに時間がかかったためとみられている。北朝鮮に「挑発に対する謝罪、再発防止」を必ずさせるとの朴大統領の強い意思が反映された結果だ。合意文には北朝鮮を主語とする遺憾表明が盛り込まれ、韓国では高く評価されている。

 合意に基づき北朝鮮は準戦時態勢を解除し、韓国も対北放送を中断するなど、情勢は一挙に沈静化に向かいつつある。

 問題はこれからだろう。合意には当局間対話や離散家族再会事業の推進、民間交流の活性化が明記され、韓国では早くも南北対話に期待が高まっている。だが、懸案事項を解決したい韓国側と経済支援をはじめ実利に結び付けたい北朝鮮側の思惑には大きな隔たりがあり、北朝鮮がどこまで誠意をもって対話に臨んでくるか予断を許さない。

 軍事的挑発もこれで完全に収まったわけではない。最高指導者・金正恩第1書記は恐怖政治で周囲を従わせているとみられ、わざと軍事的緊張を高めることで内部結束を図っている可能性がある。今回の一連の出来事で最も「恩恵」にあずかったのは、実はそれを権力基盤固めに利用した金第1書記だったのではないか。対話が自分たちの期待にそぐわなければ、いつでも武力挑発してくる相手であることを忘れてはならない。

 北朝鮮としては来月3日、中国で行われる「抗日戦勝記念行事」に朴大統領の出席が決まるなど、蜜月状態の中国と韓国の関係を快く思わず、挑発的行動で国際社会の耳目を集めようとした可能性もある。

 日本は拉致交渉に生かせ

 翻って拉致問題で北朝鮮との交渉が行き詰まりを見せている日本は、事態打開への糸口をどうつかむのか。今回の協議の結果を踏まえ、生かせるものは全て生かすべきだ。

(8月26日付社説)