大聖堂炎上、復元誓う心で一つになる欧州


 キリスト教文化の欧州の歴史的建造物として、またフランス国民の心のよりどころでもあったパリ中心部のノートルダム大聖堂が炎上し、数百年もの長い間にわたり人々が見上げてきた高い尖塔(せんとう)も、悲しみに暮れて聖歌を口ずさむ大勢の市民に見守られながら崩落した。復元に向けた支援の輪が国境を越えて広がっている。

シンボルの尖塔が焼失

 煙が立ち上り延々と燃え盛る大聖堂と消火活動に当たる消防隊員たちを、規制線ぎりぎりまで詰め掛けて通りや広場を埋め尽くした数多くの老若男女が、悲しみのあまり涙を流し、ひざまずいて祈り、また聖歌を歌いながら見守った。聖母マリアを称揚した大聖堂の悲劇である。

 マクロン大統領はフィリップ首相、リーステール文化相ら閣僚と共に現場に急行して「われわれは大聖堂を再建する」と声明し、またツイッターに「私のすべての同胞と同様、今晩私たちの一部が焼かれているのを見て悲しい」と投稿した。

 大聖堂は1163年に着工し、欧州におけるカトリック全盛時代に180年余りかけて建造されて完成した。数々の歴史的な出来事の舞台となり文学にも描かれ、セーヌ川の中州に位置する美しくも威容のある景観は観光地としても有数の名所だった。1991年に世界遺産に登録されたが、わずか一夜でシンボリックな尖塔のほか大半の屋根が焼失した。

 その衝撃は国境や人々の心の壁を破っている。欧州連合(EU)のトゥスク大統領は「大聖堂の炎上で、われわれが条約以上に深く、重要なものによって結び付いていることに改めて気付かされた」と述べ、大聖堂再建に向けて加盟28カ国の連帯を呼び掛けている。

 フランスでは燃料税増税問題で反政府運動「黄色いベスト」デモが暴走し、放火や店舗略奪などが毎週のように繰り返されていた。国民の不満を背景にマクロン大統領は国民との大討論会を企画し、大聖堂が炎上した日もテレビ演説を行う予定だった。火災の報に駆け付けた群衆の中にはデモに参加した人々もいたであろう。

 欧州では英国のEU離脱問題のほか、加盟国の各選挙でもイスラム諸国からの移民政策などに対する不信を反映して極右勢力が票を伸ばす傾向がある。宗教界では聖職者の性犯罪が大問題となって、カトリックの総本山であるバチカン(ローマ法王庁)が世界会議を招集して対応に追われるほど深刻な状況になっていた。

 国境越えた善意集まる

 だが、フランス国民の悲しみへの共感の高まりが対立や問題の克服につながることを期待したい。21日からの復活祭を控えた時期の火災だったが、大聖堂修復の義援金を受け付ける仏遺産財団のホームページには、一時アクセスができなくなった。国内外から寄付が殺到するなど、国境を越え、宗派を超えた善意が集まっている。

 わが国も政権交代と世界同時不況の厳しい社会情勢の中にあって東日本大震災を経験した。助け合いから「絆」の大切さを学んだ。大聖堂の復元は欧州の心の復元でもある。