フランス、黄色いベスト運動激化受け燃料増税を断念


 ガソリン価格高騰に端を発したフランスの黄色い安全ベストを着用した抗議運動が、全国各地でエスカレートしたことを受け、マクロン政権は5日、2019年中の燃料税の引き上げを断念した。

フィリップ首相

5日、パリで議会の審議に臨むフランスのフィリップ首相(EPA時事)

 マクロン政権は4日、閣議で来年半年の増税延期方針を出したが、抗議運動が収束しないことを受け、フィリップ首相も国会答弁で増税策そのものを取り下げる考えを示した。ドルジ環境相も5日、抗議運動の鎮静化のためにガソリンと軽油の増税は19年中行わないと表明した。

 11月17日に全国各地で始まった抗議デモは土曜日を中心に断続的に行われ、今月1日のデモでは、デモ隊と機動隊が激しく衝突し、車や建物への放火、凱旋門の乗っ取りや落書などパリ中心部は戦場のようになった。パリだけでデモ参加者、警察官を含め、260人以上が重軽傷を負い、デモ参加者ら421人が拘束され、内務省は、今回の抗議デモは「過去数十年で最悪の水準」との見方を示した。

 政府は当初、デモ参加者は減少するとの見方を示し、世論調査で8割を超えていた抗議運動への支持も、すぐに下降すると見ていた。しかし、先週末の世論調査で依然、70%以上の支持を得ていることが判明し、早急な対策を迫られていた。

 すでに幹線道路の封鎖などでガソリンスタンドはガソリン不足になり、交通渋滞で物資輸送ができず、クリスマスシーズンでありながら、大手スーパーや小売店は商品を調達できない被害が広がっており、政府への圧力が強まっていた。

 今回の黄色いベスト運動の特徴は、マクロン政権の強引な改革手法に対して、実際には景気回復や雇用創出、購買力上昇、格差是正に繋(つな)がっていないとの不満が爆発した形だ。

 そのため、抗議運動は自然発生的に起き、デモの主催者も特定が難しく、要求項目も多い。政府は何度か代表者との会談を試みたが、政府との会談に行った代表者が殺害予告を受けるなどして、交渉に繋がっていない。デモ自体は正式な届け出がなく、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)上で呼び掛けられる前例のないもので、毎週土曜日の抗議デモは過激化を増している。

 ブラックブロックと呼ばれる過激な暴徒も紛れ込み、デモ行進する場所周辺の商店やバス停施設などの破壊を行い、機動隊と激しく衝突している。今週末8日に予定されるデモも、政府の増税取り下げだけでは購買力上昇に繋がらないとして実施される可能性も高いと見られている。

(パリ安倍雅信)