英のEU離脱案、議会不承認の混乱避けよ


 英国の欧州連合(EU)離脱合意案が、EU首脳会議で承認され正式決定したことを受け、メイ英首相は議会下院での承認に向けた採決を12月11日に行うと発表した。ただ、メイ首相が率いる与党・保守党は過半数に届かない状況に置かれ、不透明感を増している。

「合意なき離脱」の恐れも

 合意案に対しては、ラーブEU離脱担当相(当時)が「いかなる民主国家も調印したことがない」内容だと激しく抗議し、閣僚を辞任するなど政権内でも混乱が起きた。

 離脱時期は来年3月末に迫っている。合意案が否決された場合、時間切れで「合意なき離脱」に突入する恐れがある。そうなれば、経済や国民生活に大きな混乱をもたらすだろう。こうした事態は避けねばならない。

 合意案は、離脱条件を定めた「離脱協定案」と離脱後の英EUのあるべき関係を示した法的拘束力のない「政治宣言案」からなる。トゥスクEU大統領は「われわれはついに最良の妥協案を見いだした」と自賛した。

 合意案では、英国がEUに「手切れ金」を支払うこと、2020年末までの移行期間を設けることなどが盛り込まれた。移行期間は、日本企業も含めた進出企業や外資に十分な準備の時間を与えるためのものだ。

 交渉で最大の懸案となったのは英領北アイルランド問題だったが、EU加盟国のアイルランドと北アイルランドの厳しい国境管理を避ける方法が見いだせなかった。解決策がまとまらない場合、移行期間を最長で2年延長するか、英国全体がEUの関税同盟に事実上残留するかを20年7月までに選択するという玉虫色の決着となった。

 これに対しメイ政権に閣外協力する北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)は強く反発。採決では同党の10人全員が反対する姿勢だ。加えて80人近くの与党議員の造反もあり、下院650議席中、賛成票は250程度との報道もある。

 メイ首相は「議会が否決すれば何が起きるか分からず、不確実さを生み出す」と警告し、合意案への理解を求めている。今後採決が行われるまで、首相は国民に直接訴え、個々の議員への説得や切り崩しに全力を尽くすものとみられるが、正念場を迎えた首相の手腕が問われる。

 合意案に反対するのは、DUPや保守党のいわゆる欧州懐疑派だけではない。労働党はメイ首相を辞任、あるいは総選挙に追い込もうという魂胆がある。

 反対派にはEUとの再交渉や国民投票の再実施などの考えもあると言われるが、成算があるわけではない。また、時間切れで合意なき離脱に突入するのを避けるために、離脱時期を延長する手段もあるが、それにはEU全加盟国の承認が必要だ。

 混乱が続けば、英国のEUに対する交渉力が失われるだけでなく、企業や資本を英国からEU諸国に移動させる動きに拍車を掛けることになりかねない。

世論の分裂拡大を懸念

 それ以上に心配されるのは、北アイルランドも含めた英国世論の分裂が一層拡大していくことだ。メイ首相はもちろん、英国政治家たちの見識と責任が問われている。