アゼルバイジャンのナゴルノカラバフ、大国の代理戦争の場にするな


 旧ソ連構成国の一つアゼルバイジャン西部のナゴルノカラバフ自治州で今月1日夜から2日にかけて、アゼルバイジャン軍とアルメニア系武装組織の間で軍事衝突が勃発した。

 ナゴルノカラバフ自治州は、アルメニア住民が約8割を占め、ソ連時代から領土、民族、宗教紛争の絶えない地域である。地政学上もロシアやトルコなど大国の思惑が絡み合う。同自治州を大国の代理戦争の場としてはならない。

 係争地めぐる軍事衝突

 アルメニアは世界で初めてキリスト教を国教とし、アゼルバイジャンはイスラム教シーア派の支配する国。アゼルバイジャン内の自治州に住むアルメニア系住民の多くもキリスト教徒であり、ソ連時代の末期にアルメニアへの編入を要求して1992年1月には「ナゴルノカラバフ共和国樹立」を宣言した。

 だが、アゼルバイジャンが独立を認めず武力衝突に発展。88年から94年5月の停戦合意までの約6年間の散発的な戦闘で推定1万8000~3万人の犠牲者が出た。その後、何回か停戦違反が繰り返され、2014年8月にも軍事衝突が起きた。

 今回の衝突を受け、ナゴルノカラバフ自治州を支えるアルメニアとアゼルバイジャンの双方と関係の深いロシアのプーチン大統領は2日、「即時停戦と自制」を双方に訴えた。米国、ロシア、フランスが共同議長を務める「ミンスク・グループ」(92年設立)を中心に欧州安保協力機構(OSCE)も双方に停戦を呼び掛けた。

 こうした状況の中で双方とも戦闘停止を宣言。5日正午からひとまず停戦に入った。停戦合意までに双方の死者は少なくとも計64人に達したという。

 アルメニアは南カフカスで唯一、親ロシア国家で、ロシアを核とする旧ソ連6カ国で形成される「集団安全保障条約機構(CSTO)」に加盟している。ロシアは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国トルコとの最前線という地政学的理由からアルメニアを重視してきた。アルメニアにはロシア軍や国境警備隊が駐留。昨年11月、シリア駐留ロシア軍機がトルコに撃墜されて以降、ロシアはアルメニアに空軍機を増派してトルコを牽制(けんせい)している。

 一方、産油国アゼルバイジャンはこれらの条約や同盟に参加していないが、ロシア製兵器の有力な輸入国だ。また、同国は宗教的にはイランと近いが、イスラム教スンニ派の国であるトルコの友好国でもある。エルドアン・トルコ大統領は4日の演説で「いつの日かアゼルバイジャンが同自治州を支配する日が来るだろう」とアゼルバイジャンへの支持を明確にした。

 双方は停戦の順守を

 今回はロシアの停戦工作で戦火はほぼ収まったようだが、宗教的、民族的対立、さらにはロシアとトルコとの関係悪化を背景にしたナゴルノカラバフ問題の最終的な解決には程遠い。

 アルメニア、アゼルバイジャン両国とも軍事力強化に努めており、いつまた対立の火種が発火して大規模な戦争に拡大しないとも限らない。両国には今後とも停戦の順守、自制、問題の政治的解決を強く求めたい。