民主的選挙に程遠いベラルーシ大統領選


 旧ソ連のベラルーシで任期満了に伴う大統領選挙が行われ、現職のルカシェンコ大統領が当選し、1994年以来の連続5選を決めた。同じ人物が既に21年間支配し、さらに5年間も権力の座にとどまり続けるこの国の政治体制は到底民主的とは言えず、「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ大統領の強権統治は容認できない。
ルカシェンコ氏が5選

 ソ連時代にロシア、ウクライナとスラブ3共和国を形成していたベラルーシは、91年のソ連解体後、ルカシェンコ大統領の下でロシアとの一体感を強めてきた。91年12月に当時の3共和国首脳が極秘裏に作成したベロベーシ協定(ソ連消滅を決めた文書)の批准にベラルーシ議会でただ一人反対票を投じたのがルカシェンコ議員であった。

 当時から全体主義支持の考えの強かったことがうかがえる。「ソ連崩壊は20世紀最大の悲劇」との考えを持つロシアのプーチン大統領は、ルカシェンコ大統領に祝電を送り、「同盟関係強化」への期待を示した。

 ロシアは長年、ベラルーシ向けの石油、天然ガス価格を低く抑え、巨額の借款を供与するといった形でルカシェンコ政権を支えてきた。ベラルーシはロシア主導の「ユーラシア経済同盟」の有力メンバーでもある。ロシアとの結び付きが強いだけに、ベラルーシはロシアの経済状況に大きく左右される。ウクライナ危機をめぐる欧米からの度重なる経済制裁や原油安などによるロシアの経済不振の影響がベラルーシ経済を直撃した。

 そこで、ルカシェンコ政権は西欧への接近に舵(かじ)取りを変更しつつある。ウクライナ南部クリミア半島の併合やウクライナでの軍事介入をめぐってはロシア不信をあらわにした。ウクライナ停戦に向けて独仏の仲介した2月の和平協議の場として首都ミンスクを提供した。

 また、大統領選挙と対欧州連合(EU)関係改善を意識して8月に著名な政治犯8人を釈放した。こうした方向転換を好感したEU外相理事会は、ルカシェンコ大統領らの渡航禁止や資産凍結の制裁を11月から4カ月間停止することで合意した。

 もっとも、今回の大統領選挙にはルカシェンコ大統領のほかに3人が立候補したが、実質的な対抗馬はおらず、選挙から事実上排除された野党は選挙ボイコットを呼び掛けていた。唯一の野党候補のタチアナ・コロトケビッチ女史の得票率はわずかに4・9%。親政権派候補の2人はそれぞれ、5・2%、1・4%であった。

 米国務省のトナー副報道官は大統領選の平穏な実施を歓迎する一方、自由で公平な選挙には程遠かったとして失望を表明する声明を発表した。声明は欧州安保協力機構(OSCE)の民主制度・人権事務所などの報告を引用する形で、票の集計や選挙管理当局の構成に重大な問題があったと指摘した。

民主化を進展させよ

 これでは政治犯釈放などの動きも単なるパフォーマンスと受け止められよう。ルカシェンコ大統領はベラルーシの民主化を進展させる必要がある。このような大統領選は「茶番」であり、意味を持たない。

(10月18日付社説)