ギリシャ危機、地政学的重要性踏まえ支援を


 ギリシャの財政危機をめぐっては、同国の財政改革案の法制化を条件に欧州連合(EU)が金融支援を表明したことで、財政破綻やユーロ圏からの離脱という最悪の事態は回避された。しかし、ギリシャの経済が立ち直り安定するまでの道のりは長い。そういう中、ロシアや中国の影響力の増大が懸念される。

欧州分断図るロシア

 EUのユーロ圏首脳会議で合意したギリシャへの金融支援は、総額で最大860億ユーロ(約11兆7000億円)が見込まれている。これに対しギリシャ議会は、支援協議の前提として要求されていた財政改革関連法案を賛成多数で可決した。

 改革案は付加価値税(VAT)の税率引き上げや年金制度の見直しなど、ギリシャ国民にとっては痛みを伴う内容である。一度はEUの財政緊縮案をめぐり国民投票を実施し、反対を主張したチプラス首相に対し、与党・急進左派連合からの造反が出たものの、最大野党の新民主主義党が賛成に回った。

 銀行の破綻処理手続きや民事訴訟手続きをEU基準に近づけるための第2弾の改革法案も可決した。銀行が破綻した際に投入される税金負担を抑制するため、保護される預金の上限額を設定することが柱で、民事訴訟にかかる期間や費用を抑制するため、手続きを簡略化する措置も盛り込まれた。

 ギリシャ経済の立て直しのためには、放漫財政を引き締める一方で、成長への布石を打っていかなければならない。これから行われる支援協議が順調に進むことを期待したい。

 ギリシャ問題は、世界経済や国際金融市場に悪影響を及ぼしかねないだけでなく、その地政学的な重要性から、政治的・軍事的な危機をも孕(はら)むものであることをはっきりと認識する必要がある。

 ギリシャは地中海の要衝に位置し、中東からは欧州への入り口に当たる。シリアなどからの過激派の侵入ルートとなっているとの懸念もある。

 ウクライナ問題などで北大西洋条約機構(NATO)と厳しく対峙(たいじ)するロシアが、ギリシャに接近し欧州分断を図ろうとするのは当然だろう。正教(オーソドックス)を奉じる国として両国は歴史的に近い関係がある。チプラス首相も、6月に訪露し、ロシアへの接近のそぶりを見せている。

 中国は「海のシルクロード」の終着点にあるギリシャでの港湾の利権の獲得を進めている。オバマ米大統領が「ギリシャがユーロ圏にとどまることは死活的に重要だ」と、ギリシャに強硬な姿勢を崩さなかったメルケル独首相に、交渉妥結を迫ったのもうなずける。

関係諸国は大局的見地で

 チプラス首相のアクロバット的な政治手法は、今のところ成功しているように見える。しかし、派手なパフォーマンスなど危うさを否定できない。

 ギリシャの中露への過剰な接近を食い止めるためにも、財政・経済の立て直しと安定化が不可欠だ。EUをはじめ関係諸国はギリシャに対し経済再生への自助努力を促しつつ、大局的見地から支援を行っていくべきである。

(7月28日付社説)