英空母極東派遣、南シナ海で重要な対中抑止力


 英国は最新鋭の主力空母「クイーン・エリザベス」を太平洋に派遣すると発表した。

 欧州連合(EU)からの離脱期限が来月に迫る同国が新たな国際戦略を打ち出す中、インド太平洋への海洋進出が著しい中国の、特に南シナ海「領有」化の試みに対抗する一つの布石であり、公海の航行の自由を守る国際的な動きが強まるものとして期待したい。

 国防相が演説で発表

 「クイーン・エリザベス」は一昨年に就役し、実際に太平洋へ派遣されるのは再来年以降になるとみられる。英米軍の最新鋭戦闘機F35を艦載し、米海軍との共同作戦も可能で、南シナ海で「航行の自由作戦」を展開している米国はじめ、中国の「領海」化を認めない国々との連携が強化されるだろう。

 同空母派遣は、ウィリアムソン英国防相が王立防衛安全保障研究所で演説した中で発表された。世界が大国間の競争時代に入ったとの認識を示し、再軍拡で旧ソ連の版図を取り戻そうとするロシアや、急成長した経済力によって軍拡を進める中国を名指しした上で、国際法違反や主権侵害の動きに対抗する強い決意を示している。

 特に脅威として認識されているのは、ウクライナやジョージアに支配領域を広げ、米露間の中距離核戦力(INF)全廃条約に違反して新型ミサイルを開発するロシアだが、英国の世界的存在感を高めるために示した国際的な連携の構築はインド太平洋諸国にも及び、中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」と競合する。

 「個人の自由、法の支配、他者への寛容などによって世界は形作られるという世界観を共有する」米国との特別な関係を軸に、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、欧州諸国、シンガポール、マレーシア、東南アジア諸国、日本、韓国、インド、中東やアフリカの友好諸国との関係を向上させることにより英国のグローバルな軍事力とプレゼンスを高めようとするものだ。

 その象徴が最新鋭空母の太平洋派遣と言えるだろう。これに対し英国世論の中には、保守党・労働党の与野党対立もあり、中国の地対艦ミサイルで簡単に沈められる空母の派遣による南シナ海問題への介入は予算の無駄だという批判もある。

 しかし、介入しないことによるコストの方がはるかに高いことをウィリアムソン氏は指摘した。ロシアが一方的に併合したウクライナ南部のクリミア半島や、中国が実効支配した南シナ海のパラセル諸島など「力による現状変更」を元に戻すには、非常に難しい状況になっていることも事実だ。

日英は海洋の自由を守れ

 英国は、中露を相手に北極海から南洋に至るまでの新たなグレート・ゲームをする構えであり、自由、法の支配などの価値観はわが国も共有するものだ。英国の国際的な役割について、ウィリアムソン氏は世界5番目の経済大国であることを強調している。わが国は3番目の経済大国として、応分の役割も期待されてきた。日米同盟を軸に、英国との関係も強化して海洋の自由を守っていくべきだ。