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カンボジア、懸念される中国傾斜加速


 カンボジアで下院(定数125)選挙が行われ、フン・セン首相率いる与党・人民党がほぼ全議席を獲得する見通しだ。在任期間が33年に及ぶフン・セン首相が、政権の座にとどまることが確実になった。

強権的なフン・セン政権

 しかし、選挙は有力野党が参加できない中で実施された。前回下院選で躍進した最大野党・救国党はケム・ソカ党首が昨年9月、政権転覆を企てたとして逮捕されたのに続き、11月に解党に追い込まれた。

 政府に批判的な有権者の受け皿となる対抗勢力はなく、欧米からは選挙の正当性を疑問視する声が上がっている。フン・セン政権が強権的な姿勢を強めていることは気掛かりだ。

 米国は今年2月のカンボジア上院選で人民党が全議席を独占したのを受け、同国の政府と軍への支援を停止。6月には「深刻な人権侵害」を理由に、フン・セン首相の警護隊長に米国の資産凍結や取引停止の制裁を科した。欧州連合(EU)も制裁を検討している。

 こうした中、カンボジアで存在感を高めているのが中国だ。中国は下院選を資金面で支援する一方、監視団を派遣。フン・セン政権を後押しした。首都プノンペンでは中国企業による建設ラッシュも目立つ。下院選勝利で、フン・セン政権の中国への一層の傾斜が予想される。

 懸念されるのは、カンボジアが東南アジア諸国連合(ASEAN)内で中国の代弁者としての主張を強めることだ。ASEANでは、フィリピンやベトナムなど加盟国の一部が中国との間に南シナ海の領有権問題を抱えているが、カンボジアが中国を支持すれば、中国による南シナ海の軍事拠点化にASEANが一致して対抗できない。

 オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、南シナ海問題をめぐる判決で、中国が南シナ海をほぼ囲むように設定する独自の境界線「九段線」について、域内の資源に「歴史的権利を主張する法的根拠はない」との判断を下した。だが、中国は判決を無視して一方的な現状変更を続けている。

 中国とASEAN加盟国は昨年5月、南シナ海の紛争防止に向けた「行動規範」の枠組み案で合意していた。しかし、その後も中国は南シナ海の軍事拠点の増強をやめていない。中国が実効支配を強化すれば、日本の貿易を支えるシーレーン(海上交通路)の安定利用が妨げられる恐れもある。

 カンボジアは16年10月、中国の習近平国家主席がプノンペンを訪問した際、南シナ海問題について中国の立場を支持する共同声明を発表した。これは、国際ルール違反の中国に加担することだと批判されても仕方があるまい。

人材育成などで関与を

 カンボジアのように強権的な政権が中国との関係を深めるケースが目立つ中、日本は法整備支援や人材育成など、中国とは違った形で関与を進める必要がある。

 戦略的な関与を通じ、カンボジアを含むインド太平洋地域で航行の自由や法の支配などの価値観を浸透させていくことが求められる。