「中国台湾」表記、一方的な主張を押し付けるな


 中国政府が海外の航空会社に対し、台湾を中国の一部として表記するよう要求している。

 一方的な主張を海外企業に押し付けるような身勝手な態度は許されない。

従わなければ法律で処罰

 中国民用航空局は4月、海外の航空会社44社に対し、中国が主張する「一つの中国」原則に基づき、サイト上で台湾を「中国台湾」など中国の一部として明確に表記するよう通達。従わなければ、中国の法律で処罰するとしている。

 実に横暴な振る舞いである。これまで多くの航空会社は、中国、台湾双方の主張に配慮してサイト上の区分を曖昧にするなどの措置を取ってきた。だが、ドイツ、カナダなどの18社が5月末までに中国の要求に従って表記を変更した。

 日本でも、日本航空と全日本空輸が中国と香港向けの公式サイトを対象に表記をそろって変えた。これに対し、台湾政府は台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)を通じて厳重に抗議するとともに表記を元に戻すよう求めた。

 菅義偉官房長官は「政府当局が民間企業の活動に対して、強制力をもって特定の政治的立場に基づいた措置を取ることを要求することは好ましくない」と述べ、中国側に外交ルートを通じて懸念を表明したことを明らかにした。

 また英紙によれば、米政権は中国の動きに反発し、米航空3社に要求に従わないよう求めた。強引なやり方が許されないのは当然である。

 中国の習近平政権は「一つの中国」原則を認めない台湾の蔡英文政権への圧力を強化している。習氏は3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の演説で「祖国の完全統一実現は中華民族の根本利益だ」と強調し、中台統一への強い決意を示した。また「祖国分裂の行為は必ず失敗する」と述べて蔡政権を牽制(けんせい)している。

 4月には福建省沖の台湾海峡で「実弾演習」を行った。中国は台湾を孤立させる外交攻勢を仕掛け、今年に入ってからも中米のドミニカ共和国とアフリカのブルキナファソが台湾と断交して中国と国交を樹立した。今回の表記変更要求も台湾への圧力強化策の一環だと言えよう。

 全人代で国家主席の任期制限を撤廃した習氏には、建国の父である毛沢東もできなかった中台統一を成し遂げ、歴史的な功績を残したいという野心もあろう。だが、台湾の人たちの多くは中国との統一でも独立でもない「現状維持」を望んでいる。こうした民意を踏みにじることがあってはならない。

日本は悪影響を避けよ

 一方、米国では3月、米国と台湾の高官往来を法的に裏付ける台湾旅行法が成立した。米国は1979年の米台断交と台湾関係法の施行後、一定の地位以上の米台高官について相互訪問を自主規制してきたが、台湾旅行法の成立でトランプ大統領の訪台や蔡氏のワシントン訪問も可能になる。米台関係の強化が期待される。

 日本も、今回の日航や全日空の表記変更が台湾との関係に悪影響を及ぼすことは避けなければならない。