英研究所報告、懸念される中国の兵器近代化


 英国際戦略研究所(IISS)は、世界各国の軍事力に関する恒例の報告書「ミリタリー・バランス2018」を発表した。報告書は、欧米に肩を並べうる中国とロシアの軍事力に焦点が当てられ、もはや米国とその同盟国はこれまでの優位性を維持することができないと警告を発した。

 米の優位性維持が困難に

 今年の報告書ではアジア情勢に関する項目で、兵器の近代化を進める中国が配備能力で米国を急速に追い上げる状況を分析。欧米に追いつくことが目的ではなく、世界の軍事技術を開発、牽引(けんいん)することを目指していると結論付けている。

 中国の習近平政権は「強国路線」を鮮明にしている。中国の兵器近代化は米国だけでなく、中国との間に沖縄県・尖閣諸島問題を抱える日本にとっても脅威が増大することになり、大きな懸念材料となる。

 報告書は、中国は2020年に国産次世代ステルス戦闘機「殲20(J20)」の運用開始を目指しており、米国は実戦用のステルス機を独占的に保有してきた立場を失うと指摘。中国の新しい長距離空対空ミサイル「PL15」については「今年中に実戦配備するだろう」と予想し、過去30年間、米国と同盟国が握ってきた「空の防衛」での優位性は、当たり前のものではなくなるだろう、と警告した。

 とりわけ中国の南シナ海の行動については「中国にとって、南シナ海と周辺海域のより広範な支配権確立が戦略的優先課題となっている」と指摘。「アジア太平洋地域の各国は、域内における中国軍の独断的行動とますます強まるその存在感に対し、深刻な安全保障上の懸念を感じている」と強調した。

 しかしオランダ・ハーグの仲裁裁判所は16年7月、中国が域内の資源に「歴史的権利を主張する法的根拠はない」との判断を下している。中国の振る舞いは大国にふさわしいものとは到底言えない。米国などは南シナ海の航行の自由を守り続ける必要がある。

 一方、トランプ米政権は19会計年度(18年10月~19年9月)の国防予算案で、中国の新型兵器を念頭に、国防総省ミサイル防衛局の予算として99億㌦(約1兆760億円)を計上。過去最高額を記録した。

 また、中国やロシアが開発中の極超音速兵器に対応するため、1億2000万㌦を計上。こうした兵器は既存のミサイル防衛態勢では探知や迎撃が困難だとされる。米国や同盟国の抑止力向上を図る上で重要な予算措置だと言えよう。

 トランプ政権は「核態勢の見直し」(NPR)でも、オバマ前政権の核軍縮の方針を転換し、新型核開発推進を打ち出した。ロシアの核開発に後れを取っているとの危機感が背景にある。

インド太平洋で牽制を

 安倍晋三首相は昨年11月、トランプ大統領との首脳会談で「自由で開かれたインド太平洋戦略」の推進を確認した。

 この戦略はアジアとアフリカを結ぶ地域の安定的な成長のため、航行の自由や法の支配などの価値観を浸透させる狙いがある。日米が連携して中国を牽制(けんせい)していく必要がある。