キルギスの民主化を地域安定につなげよ


 中央アジアのキルギスでアタムバエフ大統領の任期満了に伴って行われた大統領選の結果、与党・社会民主党候補のジェエンベコフ元首相が勝利した。

 ジェエンベコフ氏は「キルギスが民主的な国家であるということを世界に示した」と胸を張った。民主化進展がキルギスはもちろん、地域の平和と安定につながることを期待したい。

大統領選で与党候補勝利

 ソ連解体後独立したキルギスでは、1990年10月の初代大統領就任以来3期15年近くもトップに居続けたアカエフ氏がいわゆる「チューリップ革命」で退陣、モスクワへの亡命を余儀なくされた。

 また、2005年3月から約5年間大統領を務めたバキエフ氏は「キルギス騒乱」によって首都ビシケクから逃亡し、国外に亡命するなど、一時期、内政は不安定だった。

 その後、10年7月の新憲法制定によって、大統領制から議院内閣制に政体は移行。旧憲法では、大統領に首相の任命権や外交決定権、法案提出権など、広範かつ強大な権限が与えられていた。こうしたことがアカエフ、バキエフ両政権の独裁化につながった。

 その反省からバキエフ政権崩壊後のオトゥンバエワ暫定政権によって制定された新憲法では、大統領は事実上の象徴的存在となった。昨年12月の国民投票では、与党提案の「首相の権限強化」を柱とした憲法改正が実現した。

 キルギスの外交は近年、ロシアとの関係を重視しつつも、中国、米国などの大国とのバランス外交を推進している。日本は米国と並んでキルギスに対する主要支援国で、経済・貿易関係も緊密だ。

 安倍晋三首相は15年10月、日本の首相として初めてキルギスを訪問した。アタムバエフ大統領との首脳会談では、キルギスの民主化を引き続き支援していく方針を伝達。首都ビシケクと南部都市を結ぶ幹線道路整備費として約120億円を貸与することが決まった。

 キルギスを含む中央アジアは中露両国に挟まれた地政学上の要衝だ。中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」の陸路に当たる。中国を牽制(けんせい)する上でも、日本がこの地域で存在感を高めていくことは重要だ。

 一方、キルギスはイスラム教徒が約75%と多数を占めることから、過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員を志願する若者たちが数百人規模で確認されている。4月にロシア第2の都市サンクトペテルブルクの地下鉄車内で起きた自爆テロの実行犯もキルギス出身だ。

 ISが「首都」と位置付けたシリア北部の都市ラッカは、クルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)によって陥落した。だが、ISの過激思想は世界に拡散している。前政権に引き続き、過激派対策がジェエンベコフ政権でも急務となっている。

日本はテロ対策支援を

 日本は近年、ロシアと協力して中央アジアとアフガニスタンでテロリストの資金源となる麻薬対策を強化した。

 キルギスを含む中央アジアの平和と安定のため、今後も支援を継続すべきだ。