香港行政長官選、輝き失わせる中国の強権統治


 香港の行政長官選挙は、中国指導部がテコ入れした林鄭月娥氏が、有力候補だった曽俊華氏らを破って当選した。

 だが香港大学の最近の世論調査では、曽氏の支持率が56%、林鄭氏は29%だった。香港市民が「民意なき選挙」と批判するのも当然だ。

 習政権が露骨に介入

 問題だったのは、中国の習近平政権の露骨な介入だ。投票日直前に共産党政治局常務委員の一人である張徳江氏が深圳へ飛び、親中派の選挙委員を集めて林鄭氏への投票を指示した。

 林鄭氏も曽氏も「中央政府の支持がなければ香港は発展しない」と語る親中派だ。中国は、2人の親中派の争いが激しくなれば無党派候補に票が流れかねないと危惧したのだ。曽氏は市民の高い人気を背景に民主派から支持を取り付けたものの、親中派の後押しはほとんど得られなかった。

 前回の選挙でも、土壇場で深圳へ飛んだ共産党政治局員の劉延東女史が梁振英候補への投票一本化を指示した。中国のこうした介入手法は香港統治の基本として定着したとも言える。その結果、市民に不人気な候補が当選する。香港政府のトップである行政長官の選挙は、そんなねじれ現象を生んでいる。

 行政長官選は香港市民による直接選挙ではなく、選挙委員会(定数1200)による間接選挙だ。職業別代表と立法会(議会)議員らで構成される選挙委は、親中派が3分の2を占め、中国の政治的意向が大きく反映される構造になっている。

 そもそも1997年7月1日に香港が英国から中国に返還される際、中国は「一国二制度(中国とは異なる香港の資本主義や民主主義体制を認める)」の下、「港人治港(香港人による香港統治)」による「高度な自治」を約束したものの、これを守っていない。

 中国の強権は今回の件にとどまらず、香港市民の社会生活にも及んでいる。1年半前には、中国共産党のスキャンダル暴露本を出していた香港の銅鑼湾書店店主がタイで拉致され、中国大陸へ連行された。今年1月に中国の大富豪が香港で失踪したのも、中国当局の関与が指摘されている。

 「100万㌦の夜景」に代表される香港の観光集客力は、駐留する中国人民解放軍の力をバックに強権統治を推し進めれば低下する。何より国際金融センターとしての香港のパワーが損なわれることにもなりかねない。そうなれば香港の輝きは失われよう。

 また、中国の悲願である台湾との統一をにらんだ布石でもあった「一国二制度」のメッキがはがれるようであれば、国際社会や台湾の信用は得られず、統一に向けた台湾政策は土台から崩れることにもなる。

 安定につながらない

 今秋に予定される共産党大会を前に政治の季節に入った中国では、「党中央の核心」に位置付けられた習総書記(国家主席)の求心力が強まっており、自省の言葉が聞かれることはない。

 香港市民の不満は強まるばかりだ。中国の強権統治は香港の安定と発展につながらないことを知るべきだ。