タイ爆弾テロ、懸念される国内外への影響


 タイの首都バンコク中心部で死者20人を出す爆弾テロが発生した。これまでにもタイで爆弾テロがなかったわけではない。だが、これまでは主に威嚇および政治的牽制(けんせい)を目的としたもので、不特定多数の大量爆殺を狙ったものではなかった。無辜(むこ)の市民を巻き込む無差別テロは断じて許されるものではない。

 潜在する政治的軋轢

 警察当局は防犯カメラに映っていた不審な黄色いシャツ姿の男の似顔絵を公開し、逮捕状を取った。これは事件現場から逃げる容疑者を乗せたバイクタクシーの運転手が特定されたことによる。運転手の供述によれば、容疑者はアラブ系の容貌でタイ語も英語も話さず、後部座席に座ると「ルンピニパーク」と書かれた紙を差し出した。

 タイでは軍事政権の強権発動で治安回復は果たしたとの評価が定まりかけていただけに、プラユット政権にとっても冷や水を浴びせられたような格好だ。懸念されるのは、国家を二分し、深まりこそすれ埋まる見込みはないタクシン派と反タクシン派の間に横たわる溝だ。この政情不安のマグマは、戒厳令など力で封印できるものではない。

 タイ治安当局は犯人について①クーデターで政権を奪われたタクシン元首相派②マレーシア国境に近いタイ深南部のイスラム武装勢力③国際テロ組織――のいずれかの可能性が高いと見て捜査中だ。

 ただ①のタクシン元首相派に関しては、テロを行った場合、軍事政権長期化に口実を与えるだけでなく、一発の爆弾が政権復帰の最大の後ろ盾となる国民の支持をも吹き飛ばすことに直結する。それだけに、テロ戦術採択には慎重にならざるを得ないだろう。

 何より事件現場の「エラワンの祠」周辺で働く花売りや踊り子、バイクタクシーの運転手らはタクシン派の支持層である中低所得者層だ。タクシン派がテロを実行する場所としては考えにくい。

 また②のイスラム武装勢力は分離独立を求め、数々の爆弾テロを引き起こしているものの、これまでバンコクでのテロは皆無で今回、使用された爆弾も、この勢力が使っているものと異なっている。

 ③の国際テロ組織という見方が浮上しているのは、不法入国でタイで逮捕された中国籍のウイグル族109人が今年7月、タイ軍政により中国に強制送還されたことへの報復との指摘があるためだ。だが、バンコクでの大掛かりなテロは過去に例がないだけに即断はできない。

 タイは多くの日系企業にとって東南アジア最大の拠点だ。自動車など製造業を中心に4000~5000社が進出し、タイ向け海外投資の6割を占める。各社の工場はアユタヤなど郊外地域にあり、生産・輸出活動への直接的な影響はないが、タイ最大の特質でもあった政治的安定が損なわれることの意味は大きなものがある。

 共同体設立へ波及の恐れ

 地域経済への影響も深刻だ。東南アジア諸国連合(ASEAN)は今年末の経済共同体設立を目指している。その中核を担うタイの政情不安は、計画全体を揺るがしかねない。

(8月21日付社説)