北京冬季五輪、懸念される人権・環境問題


 国際オリンピック委員会(IOC)は、2022年冬季五輪開催地に北京を選んだ。北京は08年に夏季大会を開いており、史上初めて夏冬両五輪を開催することになった。

人工雪で水不足の心配も

 招致合戦はアルマトイ(カザフスタン)と北京の一騎打ちとなったが、財政力と08年五輪の経験で優勢とされた北京が勝利した。五輪は18年平昌、20年東京に続き、3大会連続のアジア開催となる。

 中国の習近平政権は、世界第2の経済大国に成長した国力を誇示する場として利用する構えだ。習氏が国家主席を2期務めれば、冬季五輪の開会式で退任への花道を飾ることになる。

 しかし、北京の開催計画には懸念される点が多い。北京は降雪量が少なく、五輪開催のためには大量の人工雪を作らなければならないが、水不足に陥るのではないかと心配されている。

 会場も分散しており、北京と雪上競技が行われる張家口市は約160㌔も離れている。北京と張家口を結ぶ高速鉄道の整備費が含まれないため、低く見積もった予算には実体がないとの批判もある。

 中国は3人のIOC委員を抱え、ロビー活動でカザフスタンに大きく水をあけた。だが、クアラルンプールで開かれたIOC総会の投票では、北京44票、アルマトイ40票と僅差だった。IOC委員の多くが北京開催に不安を抱いていることの反映と言えよう。

 中国では、人権状況や大気汚染なども一向に改善が進んでいない。IOCは開催都市に「人権の尊重」を求めている。しかし、習政権は7月に300人以上の人権派弁護士を連行・拘束するなど、締め付けを強化している。

 ウイグルやチベットの人権活動家らは6月、少数民族への弾圧が続いていることを理由に、北京を選出しないよう求める書面をIOCに提出した。人権抑圧が続けば、北京での冬季五輪開催に対しても国際社会の批判が高まろう。

 大気汚染に関しては、08年五輪の際には工場の操業停止や車の通行規制などを行ったが、抜本的な解決にはつながっていない。王安順・北京市長はIOC総会の最終演説で、5年間で1300億㌦(約16兆1500億円)を大気汚染対策に投入するなど「クリーンエネルギー型都市へ邁進している」と強調したが、不安は残る。

 今回の招致合戦では当初、欧州の都市が有力視されていた。しかし、経済不況に見舞われた欧州で開催コストへの懸念が増大し、住民投票で招致反対が3分の2以上となったクラクフ(ポーランド)や、政府が財政保証しなかったオスロ(ノルウェー)が立候補を取り下げるなど、招致を辞退する都市が相次いだ。こうした状況が北京に有利に働いた面もある。

中国は責任ある行動を

 五輪は「平和の祭典」と呼ばれる。中国は五輪を開催する以上、「責任ある大国」としての振る舞いが求められる。

 これ以上、国内での人権侵害や国外での強引な海洋進出などを正当化することがあってはなるまい。

(8月2日付社説)