ウイグル族弾圧は憎しみを強めるだけだ


 中国・北京市の天安門前に車が突入・炎上した事件で新疆ウイグル自治区出身の5人の容疑者が拘束された。このことで、中国政府によるウイグル族への締め付け強化が懸念されている。

 これまでもウイグルに対しては「力による支配」が行われてきた。弾圧はウイグル族の憎しみを強めるだけだ。

 侵害される信教の自由

 事件では車の運転手と同乗者2人をはじめ計5人が死亡し、日本人1人を含む38人が負傷した。いかなる理由があれ、こうした事件を起こすことは許されない。犯人は厳しく罰せられるべきだが、事件の背景にも目を向ける必要がある。

 新疆ウイグル自治区は歴史的にムスリムの土地だったが、清朝の支配下に置かれ、中華民国時代の1933年と44年に「東トルキスタン・イスラム共和国」などとして独立を宣言した。しかし、49年に中国人民解放軍が進駐し、55年に自治区とされた。信教の自由が侵害され、教育現場ではウイグル語の使用が禁止されるなどの抑圧が行われている。ウイグル族が不満を抱くのは当然だ。

 事件について、中国の習近平指導部はウイグル独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」の指示があったと断定した。しかし、3家族が実行に携わるなどテロとしては不自然な面もある。中央政府に訴えても解決に結び付かなかった陳情者が最終的な手段を選んだとの見方もあり、習指導部が独立派への弾圧を正当化するために事件を利用しているとも考えられる。

 新疆ウイグル自治区や北京市では事件後、ウイグル族200人以上が拘束されている。「テロは計画段階で粉砕する」との中国政府の方針によるものだが、このような差別的とも言える捜査はウイグル族の反発を招くだけだ。

 中国には漢族以外に55の少数民族がいる。チワン族やウイグル族、チベット族、モンゴル族などで、総人口の8・5%を占める。中央政府の政策で多くの漢族が自治区などへ移住したため、少数民族は父祖の地でも人口に占める割合が小さくなりつつある。漢族の移住者は経済的に力をつけ、天然資源の開発に当たっている。新疆ウイグル自治区でも漢族とウイグル族との経済格差は広がるばかりだ。

 中国ではチベット問題も深刻だ。1950年に人民解放軍がチベットに進駐後、中国政府の記録では62年3月までに「死亡・負傷・捕虜を含めて9万3000人のチベット人を殲滅した」とされている。チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世がインドに亡命し、中国は65年、チベット自治区を設置した。

 中国ではこの過程を「チベットの平和解放」と呼んでいる。だが、2008年には大規模な暴動が起き、09年以降に100人以上のチベット族が中国政府に抗議して焼身自殺しているのである。

不安定化は避けられない

 中国政府はウイグルやチベットを、安全保障上譲歩できない「核心的利益」と位置づけている。しかし高圧一辺倒の少数民族政策では、中国社会の不安定化を招くことは避けられない。

(11月7日付社説)