中東にらみトルコとの戦略的関係深めよ


 トルコを訪れていた安倍晋三首相は、エルドアン首相と会談した。同国の原発建設受注をめぐって日仏企業連合とトルコ政府との実質合意を歓迎するとともに、シリア情勢やイランの核問題への対応でも連携していくことで一致した。

 海底トンネルが開通

 会談に先立ち、安倍首相はエルドアン首相らとともに、欧州とアジアを結ぶボスポラス海峡の海底トンネルの開通式典に出席。同トンネルは、オスマン帝国のスルタン(君主)が構想して以来のトルコ国民の150年越しの夢だった。

 潮流が複雑な動きをする最深60㍍の海底にコンクリートブロックを沈める難工事は、日本のゼネコン大手の大成建設が行った。長さ13・6㌔のトンネルには地下鉄が乗り入れる。1日150万人が利用し、同市の交通渋滞は大幅に緩和される。

 開通式典で安倍首相は「次は東京発イスタンブール、そしてロンドンにつながる新幹線が走る夢を一緒に見よう」とあいさつした。

 安倍首相が、今年トルコを訪問するのは5月に続き2度目。国会会期中でもあり異例だが、日本の技術と資金援助で完成したトンネルの開通式に出席する価値は十分ある。首相が先頭に立って、原発や鉄道などインフラ輸出を進める狙いもある。

原発の建設について安倍首相は「東京電力福島第1原発事故の教訓を世界と共有することで原子力安全の向上を図っていくことはわが国の責務だ」と語った。トルコは日本ほどではないが、しばしば地震の発生する国で、2011年5月に西部でマグニチュード(M)5・8、10月には東部でM7・1の地震が起きている。原発建設を進める同国にとって、日本の原発技術は最も頼りになるもので、エルドアン首相も日本の高い技術力を評価している。

 福島の原発事故という高い代償を払って得た教訓を国内だけでなく世界に生かすことの方が、短絡的に「原発ゼロ」を叫ぶより、よほど建設的である。

 トルコは昔から重要な親日国家だ。イラン・イラク戦争下の1985年、イランに取り残された日本人のため、トルコ航空の旅客機2機をテヘラン空港に派遣し無事救出した。

 イスラム教圏にありながら穏健で現実的な政策をとるトルコは、「アラブの春」以降、中東情勢が混乱の度を深める中、地域の安定の鍵を握る国でもある。日本は、トルコの地政学的、文化的な重要性をよく認識し、同国の発展と安定のために支援していくべきだ。

 アジアの西端と東端の両国の協力は、世界の平和と安定に大きく寄与する。そういう意味でも、戦略的な関係をさらに深める必要がある。

 人的、文化的交流を

 首脳会談では宇宙開発や医療分野での連携のほか、トルコ科学技術大学を設立するための協力でも合意した。

 120年前、紀州沖で遭難したトルコ軍艦エルトゥールル号の乗組員が地元住民に救出された出来事を題材にした両国合作映画が2015年に公開される。このような人的、文化的交流も進めるべきだ。

(11月1日付社説)