記者拘束で言論統制強化が憂慮される中国


 中国広東省の日刊紙「新快報」の記者が国内大手企業の不正疑惑を報道したことで警察に拘束された。

 「大手企業の信用を傷つけた」という理由だが、日本を含めた自由世界にとっては信じられないような事態だ。「言論の自由」は、その国がどの程度民主化しているかを判断するための重要な基準である。

共産党独裁の異質さ示す

 「新快報」は、この記者が第三者から報酬を受け取ったことを認めたとして、同紙1面に謝罪文を掲載した。連日記者釈放を求めた同紙が一転して非を認めた格好になったが、にわかに信じ難い。

 そもそも、誰が記事を書くための資料と金銭を記者に提供したかも明らかではない。真相は闇の中だ。

 この事件で改めて認識させられるのは、中国が共産党の一党独裁体制下にある「異質の国」であるということだ。共産党支配の唯一のドクトリンはマルクス・レーニン主義であり、報道が正しいかどうかは「マルクス主義報道観」に基づいて判断される。

 注目しなければならないのは、習近平体制下では言論統制が一段と強められていることだ。当局は全国25万人の記者らを対象に「マルクス主義報道観」に関する研修を実施している。中国では記者に免許が必要だが、研修を受け統一試験に合格しないと免許の更新はできない。

 共産党政権は、国民に「知らしめる」よりも政府に依存させることを基本政策とする。言論機関を国民統治の手段と考えているからだ。だからこそジャーナリストに対する締め付けも強化されている。

 こうした統制に反対する学者の追放も始まっている。北京大学はこのほど、改革派経済学者の夏業良教授の解雇を決めた。党中央宣伝部長だった劉雲山氏(現政治局常務委員)の下での思想・言論統制を批判したのが理由とみられている。

 日本に居住していた中国人のメディア関係者や研究者らが帰国後、連絡が途絶えるケースも目立っている。東洋学園大の中国人研究者、朱建栄教授は7月に故郷の上海に戻った後、消息を絶ち、既に3カ月が経過している。

 中国外務省は、朱教授に関して「中国は法治国家で公民は法律を順守すべきだ」と述べている。当局が情報漏洩などの疑惑で身柄を拘束したとみられ、憂慮される。

 習政権は指導体制強化のため、大々的な反腐敗キャンペーンを展開している。しかし、それに伴う言論活動の活発化が政府批判に向かう可能性が出てきたことによってジレンマに直面している。

困難な信頼関係確立

 中国政府の「改革開放」路線はマルクス・レーニン主義の枠内のものであることを忘れてはならない。

 経済面では日中の交流が盛んだが、われわれが片時も忘れてならないのは、中国は価値観の異なる国であり、対欧米のような信頼関係の確立は不可能だという現実だ。「新快報」記者の拘束事件は、このことを改めて教えたと言える。

(10月29日付社説)