海洋の安全確保でインドネシアと協力強化を


 インドネシアの大統領選挙で「庶民派」として人気の高い闘争民主党のジョコ・ウィドド氏=ジャカルタ特別州知事=が、元軍幹部で「強い指導者」をアピールしたグリンドラ党のプラボウォ・スビアント氏を退けて当選した。

 「庶民派」が大統領当選

 プラボウォ派は「選挙は法的に欠陥がある」として選挙結果受け入れを拒否した。警察は大量の人員を配置し、両派の支持者同士の衝突を警戒している。

 インドネシアは東南アジア諸国連合(ASEAN)の中核を占める重要な国であり、わが国の主要な貿易相手、投資先である。その混乱を対岸の火事視することはできない。同国の政治安定のため、できる限りの協力をすべきだ。

 国民の直接投票による大統領選は今回が3回目。貧しい被植民地国家であったインドネシアの再建のために強権を振るったスハルト元大統領は開発に全力投球したが、独裁政治のために倒れた。あれから16年、今もこの国にはスハルト時代からの腐敗、癒着、縁故主義が広く根付いている。

 そしてポスト・スハルトの4人の大統領はいずれもエリート層出身だった。開発途上国の多くがそうであるように、インドネシアにとっても“開発独裁”は避けて通れない道であった。その点、貧しい家庭の出身で地方政治からたたき上げたジョコ氏の大統領当選は、同国の政治が新しい局面を迎えたことを意味し、われわれも注視していく必要がある。

 インドネシアは人口2億5000万の大国で、半数が30歳以下という“若い”国だ。その潜在力は極めて大きいとみられている。

 しかも約1万3500の島々からなる世界最大の島嶼国家であり、日本と同様、海洋進出を強める中国の脅威に直面している。このため、協力すべき分野は多い。ASEANの盟主を自認するインドネシアは、「航行の自由」擁護の点で日本と利害を共にする重要な国である。

 日本としては東南アジア地域の安定の鍵を握る国として、その政治動向に注意を払うとともに、対中国政策など外交、安全保障面で協力関係を拡大していくべきだ。ともに「海洋国家」としてシーレーン(海上交通路)の安全確保などでも連携を強める必要がある。

 選挙戦でジョコ氏は、年率7%の経済成長や市場の活性化などを掲げ、新規道路建設や港湾・空港・工業団地などのインフラ整備を進めると訴えた。ジャカルタ特別州知事としての実績も評価されている。しかし、資源などの分野では現政権を踏襲し、保護主義的な政策を維持する公算が大きい。

 ジョコ氏には国政の経験がないことや、支持政党の国会での議席数が全体の4割以下という弱みもある。その政治力が注目されよう。

 期待される政治変革

 ジョコ氏にまずわれわれが望みたいのは、政治を変革し民主主義を深化させることである。ジョコ氏は軍人や政治家一族出身でないが故に、既得権益を打破する改革へのエネルギーが期待される。

(7月28日付社説)