NPT脱退宣言の背景
米との直接交渉で「安保と重油」を引き出す
北朝鮮がNPT脱退を宣言したのは、米国の対北敵視政策を放棄させ、北朝鮮の安全を保障させ、中断されている重油の提供再開を狙って、対米関係の緊張度を高め、米国を否応なく直接交渉の場に引き出すことを狙ったものと分析される。
北朝鮮は今回の脱退宣言に至るまで段階を踏んできている。昨年九月、日朝首脳会談直後のタイミングを狙って米国が「北朝鮮が核開発を続けていた」との情報を流し、米朝の緊張が一気に高まった。米国は同情報をそれ以前に脱北者から入手していたが、公表する時期を計っていたふしがある。
そして、北朝鮮に対し「まず核開発放棄」を要求。これに対し北朝鮮は同十月、米朝枠組み合意の破棄を決定。米国はそれを受けて重油提供を中断。北朝鮮は対抗措置として、核施設の封印解除、再稼働の準備、国連査察官の追放―と、米朝の“チキンレース”(度胸試し)による韓半島の核問題は緊張の度合いを高めていった。
そして、ついにNPT脱退を宣言したわけだが、こうした流れからすれば、脱退は唐突なものではなく、昨年十月に米朝枠組み合意の破棄を決定した段階から、その行き先にNPT脱退があることは誰でも予想できていたことだ。
さらに、NPT脱退により、北核問題が国際原子力機関(IAEA)など国際機関の手を放れたのに加え、日韓中ロといった周辺国を巻き込んだ多国間問題ではなく、米朝の問題になったとアピールしたい北朝鮮の狙いもあると見られる。
脱退宣言で、当面、北朝鮮が実際に核開発を進めるとは思われない。かつてのように「核開発は主権の問題」と突っぱねはせず、声明でわざわざ「核開発をする意思はなく、現段階で核活動は唯一、電力生産をはじめ平和目的に限られたもの」と強調しているからだ。それだけ、電力不足、燃料不足の中で厳冬を越そうとしている北朝鮮の追いつめられた状況がにじみ出たといえよう。
また米国によるイラク攻撃の前に北核問題を解決せよとのメッセージを米側に伝える目的も含まれると言われる。
これに対して米国がどう受け止めるかで、今後の展開は百八十度、異なってくる。米は七日、ワシントンで行われた日米韓対北朝鮮政策調整グループ(TCOG)会議で、北朝鮮に核問題で対話の用意があることを伝え、「ボールは北朝鮮側にある」(ブライシャー大統領府報道官)としていた。これを北朝鮮が強烈に、しかも米国を狙って打ち返してきた格好だ。
米側がこれを対話のきっかけととらえるか、挑発ととらえるかで、韓半島をめぐる局面は前進するか、緊張の度合いを高めるかの分かれ道になる。
韓国では、特に今年の厳しい寒さの中で電力不足、燃料不足から凍死者がでることを懸念する声が高く、太陽政策の継承を明らかにしている盧武鉉次期大統領も外交努力で北核問題の解決を図ろうと躍起で、ブッシュ米大統領に対話を求めていくことが予想される。
折しも米側も激しく外交を展開させている。国務省のボルトン次官、ケリー次官補を相次いで日本、韓国、中国などに派遣して、対北問題で調整を繰り返している。
ちょうど日ロ首脳会談が行われているが、小泉首相はプーチン大統領との会談で、北朝鮮核問題を主要テーマに据えており、NPT脱退声明への対応も話し合われているはずだ。
これらの動きと相まって、打ち返されたボールを米側がどう処理するかに注目が集まっている。
(岩崎 哲)