仏内のアラブ人とユダヤ人の対立拡大
【パリ28日安倍雅信】イラクへの米英の軍事行動が開始されて以来、フランスでは大規模な反戦デモが行われている。世論の八割が米英のイラク攻撃に批判的なフランスは、反戦の指導的国家と目され、右は極右団体から、左はトロツキスト団体まで反戦集会を企画し、全国的に抗議行動を展開している。
しかし、その一方で中東和平のネックともいうべき、イスラエル問題が再浮上し、反米抗議行動は、反ユダヤ主義運動にも発展しかねない状況だ。米国の強い支援を背景に成り立つイスラエル政府に対して、パレスチナ寄りのフランスの左派勢力は、この機会にユダヤ攻撃を精鋭化しようとしており、同時に在仏アラブ人たちとの対立も、その激化が懸念されている。
フランスには欧州最大の約六十万人のユダヤ人、六百五十万人のアラブ人(内約五百五十万人がイスラム教徒)を抱えている。シラク仏大統領がイラクへの反戦路線を貫く理由の一つに、仏国内のユダヤ・アラブ社会の問題がある。フランスが参戦すれば、イスラム過激派のテロの標的になるだけでなく、ユダヤ・アラブ両社会の衝突も懸念されるからだ。
二十二日、パリでの抗議デモの最中、デモに参加していたユダヤ人四人が、アラブ系の若者集団に襲われ、金属棒で殴られる事件が起こった。二十七日には仏北東部ストラスブールでのデモ行進がエスカレートし、アラブ系の若者が通りに駐車中の車を破壊、警官と激しく衝突した。
デモ隊は「ブッシュ、シャロン、ヒットラー」というプラカードを掲げ、イラクを攻撃するブッシュ米大統領と、イスラエルでパレスチナを攻撃するシャロン首相を同一視する非難の声を上げた。ユダヤ団体は反戦運動が、反ユダヤ運動に変化することを懸念している。昨年四月には事実、イスラエル情勢の悪化とともに、仏国内でユダヤ施設への放火や破壊が繰り返された。
国立人権諮問委員会(CNCDH)は、二〇〇二年は前年度に比べ、ユダヤ人住居や施設への攻撃が急増、記録された三百十三件の民族主義的暴力事件のうち、二百件近くが反ユダヤ主義に基づくものだったと報告している。そして、同諮問委員会は、多くの事件が移民間で起こっており、イラク攻撃とともに、ユダヤ人とアラブ人の衝突激化は深刻化する恐れがあると予想している。
二十七日にはパリ北郊外のシナゴーグから出てきた女性が、投石にあい負傷する事件が起こった。抗議デモ参加者にはアラブ移民が多く含まれ、中にはイラクのサダム・フセイン大統領やパレスチナのアラファト議長の写真を掲げる者もいて、イラクやアルジェリア、パレスチナの旗が掲げられている。
フランスでは反戦良識派と言われる人々が、ブッシュ、フセイン両大統領を非難する一方、疎外感を強く持つアラブ移民たちが、過激な行動に出ることが懸念されている。