平成20年11月6日
米国と世界を癒やせるか−オバマ次期米大統領
使命は「ひずみ」の是正

4日夜、米ニューヨークのタイムズスクエアで、ペンシルベニア州でのオバマ氏勝利を喜ぶ支持者(AFP=時事)
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次期米大統領に民主党の黒人候補、バラク・オバマ上院議員が選出されたことは、イラク戦争や金融危機で疲弊した米国民の「癒やし」の欲求の表れと言える。ブッシュ政権下で拡大した「ひずみ」の是正という重い使命を負ったオバマ氏は米国と世界を癒やせるのか、その手腕が試される。
根深い党派対立
誰にでも一獲千金の機会があるというのが、米国民の誇る「アメリカン・ドリーム」だ。
しかし、市場原理と自己責任が前提の競争社会で、病気や失業などで脱落した人々への公的なセーフティーネットは乏しい。多数の市民が住宅ローンの焦げ付きでマイホームを差し押さえられ、医療保険に入れない人は約四千七百万人に上る。
そんな社会のひずみが深刻化する中で行われた今回の大統領選では、オバマ氏が富裕層への増税でセーフティーネットの財源に充てることを提唱。共和党候補のマケイン上院議員は「社会主義的な富のばらまきだ」と真っ向から対立した。有権者の多数派は、マケイン氏の路線では格差はますます広がると判断し、オバマ氏を支持した。
共和党が米ソ冷戦を想起させる「社会主義」という言葉を使って、民主党を攻撃するのは初めてではない。
オバマ氏と民主党候補指名を争ったヒラリー・クリントン上院議員が大統領夫人当時、医療保険の国民皆保険化を模索した際も、同様の反対にあって実現できなかった。
オバマ氏の訴える「ワシントンの変革」は、こうした教条主義的な党派対立を乗り越えて懸案解決を目指すものだ。勝利宣言では「進歩を阻んできた分裂を癒やす決意で臨む」と強調した。
国際世論に応える
「生きているうちに黒人大統領の誕生を見るとは思わなかった。オバマ氏には世界のリーダーが務まる」――。民主党重鎮の黒人、ルイス下院議員はオバマ氏の国際舞台での活躍に期待を示した。
「オバマ人気」は国外で先行した。外国での世論調査で総じて圧倒的な支持率を誇り、七月のベルリン訪問時の演説に二十万人が集まったのはその象徴だ。イラク戦争で一部の同盟国以外とあつれきを生み、「カウボーイ外交」と評されたブッシュ政権の路線から、穏健な米国に変わってほしい――。そんな国際世論に、米国民は選挙で応えた。
「負の遺産」として次期政権に引き継がれるイラク戦争は、選挙戦の重要争点だった。マケイン氏が「勝利」まで米軍駐留を続ける姿勢を示したのに対し、開戦時から反対してきたオバマ氏は、十六カ月以内の段階的撤退を主張した。
開戦から約五年半。米兵犠牲者は約四千二百人を数え、戦費は月々百億j(約一兆円)。開戦理由とされた大量破壊兵器は発見されず、戦争を続ける大義が揺らいだ。閉塞(へいそく)感ばかりが強まる中で、有権者はオバマ氏に指揮を委ねた。
ただ、イラク撤退に加え、敵対国家との対話や究極的核廃絶も主張するオバマ氏に対しては「本当に米国の安全を確保できるのか」(元空軍兵)との懸念も根強い。同じ党のクリントン上院議員でさえ、イラン大統領との会談に前向きな姿勢を見せたオバマ氏を「うぶで無責任」と批判したほどで、さまざまな抵抗を受けるのは必至だ。
「オバマ氏はわたしとの論争に勝ったが、違いは依然残っている」――。マケイン氏は敗北宣言で勝者へのけん制を忘れなかった。
(ワシントン時事)
経済不安で白人低所得層が支持 日米は「大人の関係」に
渡部恒雄東京財団研究員の話 米大統領選で民主党のオバマ候補が勝利したのは、経済不安が争点となったことを追い風にした結果だ。
党指名を争ったクリントン上院議員を応援していた白人低所得層が、雇用を守ってくれる候補としてオバマ氏についたことが共和党との激戦地を制するポイントになった。
共和党のマケイン候補は、グルジア問題などで「ぶれないリーダー」として期待を集めたが、金融危機では態度が決まらず、「意外と危機に弱い」という印象を持たれた。
安保・外交政策が不得手とされたオバマ氏だが、テロ問題でアフガニスタンへの兵力集中を掲げるなど、事態を冷静に見ている。
オバマ次期政権も日米同盟を基礎に東アジアの防衛政策を組み立て、北朝鮮の拉致問題にも留意するだろうが、ブッシュ政権と違い、日米は「大人の関係」が求められる。アフガン問題などで日本への期待は高まるものの、協力しないのなら日本を重視せず、中国と協力するという立場を取るのではないか。
次期政権、日本に負担増要求も 当面は国内問題に集中
吉野孝早稲田大教授(米政治)の話 オバマ次期米政権は今後二年間、雇用など国内の経済問題に集中せざるを得ないだろう。そのため、国際不況への対策が後回しになることを懸念している。財政赤字が深刻化していることから、日本に対しアフガニスタンへのさらなる貢献、米軍基地の負担増、北朝鮮支援などを強く求めてくることも考えられる。
オバマ氏の勝利は、経済問題への国民の不満の高まりに比例して政権交代を求めたもので米民主主義がうまく機能している表れでもある。
ただ、米テレビの出口調査では、白人男性でマケイン氏に投票したのは57%、オバマ氏は41%。白人女性でもマケイン氏53%、オバマ氏46%で考えられていたよりも白人票はオバマ氏に流れなかった。(黒人候補の支持が事前の世論調査で白人候補より高めに出る)ブラッドリー効果が出たのかもしれない。