日本王権神話と中国南方神話
諏訪 春雄著
神話から日本文化の本質探る
神話は空想的な物語ではなく、事物の起源を語るものやその部族のルーツ、王権の由来を示している場合が少なくない。神話を解析することで、多くのことが分かってくるのである。
本書は、日本の神話、古事記や日本書紀で語られている内容を、中国の南方民族、特に少数民族とのかかわりから解明しようとした意欲作。
日本の神話は、従来、半島からの起源、騎馬民族系の影響を指摘するものは少なくないが、具体的に中国南方少数民族との類似を通して浮き彫りにしている点で興味深い。特に、日本神話のアマテラス信仰、太陽信仰の由来がこれらの南方少数民族との類似性が指摘されている点が注目される。従来から北方民族神話との共通性が指摘されているが、北方民族系神話は太陽信仰よりは天神信仰である点に違いがあるという。
すなわち、太陽信仰は稲作を中心とした南方の少数民族にみられるもので、もともと女性神として崇拝する形態があったことを現地で伝えられている神話の数々を通して浮き彫りにする。
中国南方少数民族は、それこそ数多いが、著者はそれらの神話の多くの例を挙げて、日本神話との類似性を垣間見せてくれる。南方の神話の壮大で、豊かな世界は、新たな発見を与えてくれるほど興味深い内容がある。ある意味では、少数民族という枠組みを外せば、その豊饒(ほうじょう)性は中国文化のルーツともかかわりがあるのかもしれない。
著者はこのアマテラス信仰のルーツである南方神話を通して、日本の王権神話の由来が稲作的な農耕民族特有のものであることを明らかにしている。
日本に独自に発展した政治と祭祀(さいし)の二重構造、天皇制の由来が南方神話のそこにあるとみているといえよう。
もちろん、日本神話は北方系の影響もあることは著者も認めていて、両者の混合の上で日本独自性をもって進化したことを指摘している。神話を再認識させてくれる刺激に満ちた論考である。
羽田幸男
(本紙掲載:9月11日)