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塵に訊け

ジョン・ファンテ著

作家になるまでの自伝的物語

 偉大な作家になりたいという夢を抱いて、コロラドからロサンゼルスに出てきたイタリア系の若者アルトゥーロ・バンディーニが、作家の道をつかんでいった物語である。

 恋を経験し、原稿料が入るようになり、無名人から有名人へ、童貞から男へと変ぼうするが、かつて手の中で輝きを発していた大切なものはもはや光を喪失してしまう。

 恋人はマリフアナで気が狂い、友人の家から砂漠へ姿を消してしまう。ラストシーンは、バンディーニが、刷り上がってきた最初の本に献呈の辞を記して、彼女が去った砂漠に放り投げるところで終わる。

 谷川を水が流れていくような、リズミカルで、音楽的で、はじけるような文体で、ロサンゼルスの下町と、安ホテルの住民はじめうらぶれた人々の生活が描かれていく。軽快なテンポは終わりまで変わらないが、そこには世をすねたような苦みが入り混じっていて、思春期独特の気配を醸し出している。

 著者のジョン・ファンテは一九〇九年、コロラド州生まれ。父親はイタリア系移民で、母親もイタリア系二世。ジョンは短編「侍者」が雑誌に採用されたことで、作家を目指してロサンゼルスに出てくる。

 原稿が雑誌に採用されたときの大きな喜びや、編集長が人生の恩人であり、その編集長に作家の人生が大きく左右される点など、自伝的な要素の多い作品である。

 この長編小説は、はじめ一九三九年に刊行されたが、一九八〇年になって、ファンテの圧倒的な影響で作家になったというチャールズ・ブコウスキーの尽力で再刊され、九〇年代に欧米で再評価の動きが高まり、南カリフォルニア文学の古典としての地位を固めたという。この土地の姿をあるがままに描いた作品として見直されたのである。

 性文化に関してはまだ宗教が道徳規範を支えており、イタリア系移民も人種差別されていたようであるが、空の光も都会人の暮らしぶりもロサンゼルスならではのものだ。

 (都甲孝治訳、DHC 本体一、七〇〇円)

増子耕一


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