2012年5月28日
日本民謡事典
長田暁二・千藤幸蔵編著
野良着は羽織・袴に変化した
民謡は昔から人々の生活に密着して歌われてきた。心を癒やすための必需品であったが、多くは生まれては消えていった。民謡大会で歌われたり、レコーディングされたりしている歌だけでも数千曲あるそうだ。本書はそれらの中から代表的な259曲を厳選して、歌詞・楽譜付きで解説した貴重な資料である。
民謡の中には古いものも新しいものもある。古いものについて言えば、生活環境の変化の中で歌い方も歌う場も変化してきたという。昭和に入ると、生活の洋風化、農村・漁村の機械化により、民謡の苗床そのものがなくなっていった。
新しい環境の中で、民謡は野性味や素朴さを失う一方、現代風で華やかな“改良型の民謡”に変化していく。野良着の代わりに羽織・袴で、地方訛りの代わりに標準語で、そして大都会に住むプロの民謡歌手たちも活躍しはじめる。
また人々の上京と共に民謡も上京し、都会風の歌い口と伴奏が地方に逆輸入した例も少なくなかったという。著者はそうした変化の過程を丹念に描いている。
例えば宮崎県椎葉村の「稗搗節」は、焼畑農業が行われていた時代、厳しい労働を癒やすべく歌われてきたが、焼畑が姿を消していくと、次々レコードが製作され、昭和28年に発売されたキングレコードの照菊盤は40万枚の大ヒット。宴席で歌われるようになると素朴な味は消滅したが、現在は「正」「旧」と称して幾重もの美しい旋律が発表されているという。
一方、新しい民謡も生まれ続けている。その機運が高まったのは大正末期から昭和初期で、作詞者、作曲家のはっきりしている“創作民謡”は2300曲以上。戦後は町おこしや地域振興策としても作られ続けた。「りんご節」「秩父音頭」「チャッキリ節」など、現代感覚の新民謡や改編した曲目を多く収録しているのも本書の特色だ。
全国に取材し採譜し、作りあげた多大な苦労に感謝したい。これらの民謡の数々は貴重な文化財である。
増子耕一
(本紙掲載:5月27日)