書評
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江戸の化粧

渡辺信一郎

川柳通して女性の生活風刺

 いつの時代であっても、女性の化粧に対する思いは変わらないようだ。自分を美しく見せるための努力を惜しまない。

 では、現代のようにエステやしゃれた化粧品などのなかった江戸時代、女性はどんな化粧をしていたのだろうか。本書は、それを古川柳を通して明らかにしていく。川柳は当時の風俗を如実に映しているので、化粧風俗や化粧品の材料を教えてくれる。

 朝、起きたら顔を洗うが、江戸時代でもそれは同じ。当時は石けんの代わりに小糠(ぬか)や小麦の麩(ふすま)を使った。しかし、そうした材料が使えるのは武家や富裕な商人階級だけで、大体は水で済ますことも少なくなかった。

 美顔の化粧料としては、鶯(ウグイス)の糞(ふん)が使われたが、これを風刺した川柳がある。「鳥の糞顔のはたけのこやしなり」。顔を畑に見立てているわけで、かなり江戸人のユーモアは辛辣(しんらつ)であり諧謔(かいぎゃく)趣味がある。

 手ごろな化粧水としては、ヘチマの水があった。高価な化粧料を使えない庶民は、ヘチマの水で済ませた。「化粧水せめての事にへちま哉(かな)」。ヘチマの水は根の上の茎を切ったところから、「根を断って葉を枯らすはへちま也」という冷めた句もある。著者によれば、「女たちが血眼(まなこ)になって行う動作を、批判的に眺めている男の目であろう」という。

 江戸時代の戯作者は、戯作だけでは食えないので、かたわら商売をやっていた。中でも、式亭三馬は生薬屋(きぐすりや)を経営して成功した。その中で化粧水の「江戸の水」は飛ぶように売れた。

 三馬は、ちゃっかり自分の作品に、この化粧水の宣伝文句を入れていた。手前みそだが、これはマスコミが発達していなかった当時としては、ずいぶん効果があった。今で言う雑誌やテレビによる宣伝の先駆といえるかもしれない。

 そのほか、お歯黒や眉そりなどの風俗を多数の川柳を引用しながら、女性の生活を生き生きと描いている。

 (平凡社新書 本体七六〇円)野村 淳



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