書評
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『斬られ権佐』を読む

宇江佐真理

一風変わった設定の捕物帳

 捕物帳は、欧米のミステリーの探偵役を岡っ引きに代えたものだが、岡本綺堂の「半七捕物帖」以来、さまざまなバリエーションで描かれている。それこそあらゆる職業の主人公が出尽くしたといっていいだろう。

 だが、それはこのジャンルをマンネリにさせたかというと、一部はそういうこともあろうが、逆にこの分野を豊かなものとして花開かせるものともなったといえるかもしれない。次々と魅力のあるシリーズが出現しているからだ。

 とはいえ、作者の趣向がどうであれ、最終的に小説としてどれだけ完成度が高いかどうかでその評価は決まる。どんな変わった職業や仕掛けがあろうと、小説として面白くなければそれまでである。

 その意味で、「髪結い伊三次捕物余話」シリーズで知られる著者は、探偵役の設定もそうだが、小説としての濃密で完成度が高い作品を放っている。本書は、その著者が一風変わった設定で送り出した「捕物帳」である。

 主人公は、文字通り全身を膾(なます)のように切り刻まれた仕立屋の権佐。生きているのが不思議なほどの傷を全身に負い、その数八十八カ所というシロモノだ。この傷を負う羽目になったのは、ほれた女医者の危機を助けるために受けたものだった。

 その女医が今は、権佐の恋女房になっているあさみである。なぜ死に損ないの権佐の妻になったかというと、命を投げ出した男には命を与えるしかないとあさみが思い詰めたためだ。二人には五歳になる娘のお蘭がいる。

 権佐は、体が少し回復すると、八丁堀の与力の小者となって再び探索の仕事に戻る。本書は、この権佐がさまざまな事件をさまざまな人間模様を絡ませながらつづっていく連作短編集である。

 権佐が<斬(き)られの権佐>というあだ名をちょうだいするまでのいきさつをつづった「斬られ権佐」、蕎麦屋の親子の不和と和解を幽霊話にからめた「流れ潅頂」など六編を収める。どれも権佐の死を予感させるものとなっており、それがこの捕物帳を密度の濃いドラマに仕上げている。

 今日明日じゅうに死ぬかもしれない権佐は、彼岸の夢を見ながら、現実の事件を解決するために頭脳を働かせる。肉体の不自由な権佐の手足となって走るのが権佐の実弟の弥須だった。

 権佐をめぐる人間模様が何とも言えないいい味を出している。しかも、最後の短編「六根清浄」は、文字通りの幕引きになっている。芳醇(ほうじゅん)な酒の香を漂わせた佳品である。

羽田幸男



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