書評
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アンダルシアの農園ぐらし

クリス・スチュアート

“廃墟”を買い取り楽園築く

 イギリス人のアンダルシアへの憧れは、尋常ではないようだ。あの「コスタ・デル・ソル」と命名したのもイギリス人だとのこと。さもありなん。イギリスは北国だから。秋から冬にかけて、ほぼ毎日の氷雨。短い日照時間。あいさつがわりの天気の話題……。

 本書の著者クリス(スペイン人からは、「クリストバル」と呼ばれている。さすが生粋のクリスチャン!)は、イギリスの南東部のサセックスから、グラナダの南方シェラネバダ山麓の丘陵地帯エル・バレーロの農園を買う。いわば衝動買い、だ。電話はもちろん、電気も水道もなく、車道もない、人里離れた谷間の廃墟同然の農園。売り手は、さかんに「ただ同然だ」を連発。陽気なアンダルシア人とはいえ、実に強(したた)かである。村に行くと、貧しい売り手から農園を無慈悲にも買い取ったイギリスからの逃亡者、というレッテルがつけられていた。

 それにしても、クリスは根っからのオプティミスト。さらに、イギリス人特有の自助主義者。たまたま良き隣人で相談相手のドミンゴは何事にも器用であり、彼の助けを借りて、橋を架け、家を建て直し、豚を屠し、灌漑用水路を伸ばし、農地を開墾し、羊を育てて繁殖させて市場に出荷し、現金収入のためにスペイン各地はもとより北欧まで羊毛刈りに出かけ、しだいにクリスが夢想していたパラダイスの世界をつくり上げていく。

 やがて、クリスと妻アナとの間に、待望の「二世」がさずかる。スペイン語が話せない妻の通訳をしたいと出産に立ち会うのだが、なんと三回も気絶したために、とうとう廊下に出されてしまう。女の子で、クロエ、と名付ける。まさに水入らずの家族。

 ところで、ここのあらゆる農作業が、聖人の祝日に応じて実施されている。聖人の祝日は覚えやすい。単なる日付けよりも、誰もが生まれたときからしっかりとたたき込まれているからである。実に合理的なシステム。恐らく文盲率の高かった時期からのものだろう。人間の知恵、というべきか。

 毎日が新しい体験の連続。これで何とか生きているのだ。何故か、遙(はる)か少年時代に読んだ『家族ロビンソンの冒険』という少年小説を思い出した。

 (DHC 本体一、六〇〇円)

 評論家・阿久根利具



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