明治時代は謎だらけ
横田順彌著
古書めぐるエピソードつづる
本業はSF作家だが、創作の傍ら古典SFの収集・研究をしているうちに、古書収集の魅力に陥り、特に明治時代についハマってしまった著者による「謎」だらけの明治の本をめぐるエピソードと探書のありさまがつづられている。
例えば、画家で有名な朝倉文夫が、実は「軍事探偵だった」という話。何気なく購入した古雑誌を読んでいるうちに、そこで南洋に行った朝倉文夫の本の事が出ていて、関心を持ったところ、朝倉の別な著書を手に入れる。
そこには、明治四十四年に隠密の役を帯びてボルネオまでスパイで行っていたことが記されていて仰天した。井上馨に頼まれて行ったのだが、そこで農業のやり方を教えると、王様になってくれないかなどと頼まれてしまう。
「朝倉が軍事探偵を続けていたら、その後、どうなったかを想像するのもおもしろいが、ボルネオの王様を承諾していたら、もっと、おもしろい話になったに違いない。それにしても、明治時代そのもの、あるいは明治時代人というか、この時代に生きた人々の行動には信じ難いものがある。それが明治の魅力なのだ」(本文から)
著者は明治の魅力をかく説いているが、そのほかにも少年の冒険小説で有名だった山中峯太郎が実は当初は純文学がその志望であって、ひそかに夏目漱石の弟子を希望していたという秘話が紹介されている。
それによると、山中峯太郎は、朝日新聞社に入社していたとき、夏目漱石に紹介され、実際に対面していた。山中が文壇に望みを持っていると知ると、漱石は「文士なんか泡みたいなものだから、止めたほうがよい」というような話をする。
それにしても、古本収集の世界は奥が深い。古本を一冊買うと、それに付随して関心や興味の範囲が広がり、その周辺のことが知りたくなってまた次の本を買う。際限のない世界とも言えそうで、著者の明治の本の世界を読むと、そんな底なし沼にハマった人の吐息みたいなものが感じられてしまう。
(平凡社 本体二、〇〇〇円)
羽田幸男

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