『実戦 小説の作法』を読む
佐藤洋二郎著
作家になるための心構え
純文学の小説が売れないという状況の中で、「小説の書き方」ばかりが目に付くという状況がある。もちろん、書き方のテキストは、純文学からエンターテインメントまで幅広い分野にわたっている。
それほど時代が新しい書き手を要求しているのだろうかと考えると、そうでもなさそうだ。確かに各分野で新人賞を募集していて活発だが、それがそのまま文学界が活況を呈していることにはならない。
要するに、この状況は、自己表現の手段が多様化した現代にあっても、小説や自分史を書くことによって自分の生きてきた証を書き残したいという衝動が多くの人々にあるためだろう。物語を書くことや読むことが、人生における慰安や癒しを含んでいるのは指摘されることだが、そのような“自分探し”の一部として「書く」ことをとらえるのも、あながち間違いではないような気がする。
本書は、小説の書き方という表題を持っているが、むしろ小説を書くということの意味、そして、その作業・プロセスにおける心構えといったものを説いた本である。極めてまっとう過ぎる意見やアドバイスが開陳されていて、この手のハウツーものを読み慣れた者にとっては、いささか食い足りないほど常識的なことを書き記しているという感を禁じ得ない。
その意味では、この本を読み、小説の書き方のテクニックや新人賞獲得のノウハウ、傾向と対策を体得するというような効果を期待する向きには期待外れかもしれない。また、その手の本は多数出版されているので、本書の趣旨とはちょっとずれる。
強いて言えば、本書が説いているのは、作家になるための覚悟であり、そのために必要な心構え、最低限の文章の書き方とストイックな姿勢といったものである。小説の書き方を身に着けたからといって、作家としてデビューできるかどうかは分からない。
本人に才能があるかどうか、才能とともに運があるかどうか、そして運があっても、コツコツと職人のように努力しあきらめないで持続できるかどうか、そればかりは本人にしか分からない世界である。
だから、本書は、ある意味では心温まるアドバイスをしているとともに、突き放している客観的な側面もある。そこには、「おれはこうして作家になることができた」という呪文(じゅもん)のような著者の独り言が聞こえてくるばかりだ。
しかし、それが一番いいアドバイスなのかもしれないと思わせるものがあるのも、著者の人柄のなせる業かもしれない。本書の最後には、著者自身の小説も掲載され、本文に説かれた理論と実際の小説の距離を確かめることができる。
羽田幸男

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