書評
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西域探検の世紀

金子民雄

情報戦争と発掘競争との関係

 十九世紀末から二十世紀初頭にかけて、中国の西域地方は探検の華やかな時代であった。地理的な空白を埋める意義もあったし、古代の埋蔵文化を発掘調査する目的もあった。

 ところで、この中央アジアは、この時代、政治的に緊張した場所でもあった。清朝の領土でありながら、インドに植民地を持つ英国と、南下するロシアが激しくぶつかる係争地であったからだ。

 それは帝国主義的な領土争奪のための外交戦、情報戦という形でくり広げられた。こうした英露の情報戦を、英国の作家R・キップリングは『キム』という小説のなかで“グレイト・ゲーム”と呼んだのである。

 “グレイト・ゲーム”の主役たちの動きは闇の世界に沈んで表に出ないが、発掘競争のプレーヤーたちの活躍は華々しく表立っていた。ところがこの外交ゲームと発掘ゲームは、やがて複雑に絡み合っていくというところに、大きな特徴があった。

 本書はこのふたつのゲームのかかわりを解きほぐし、国際政治と学術探検といういわば二重の視点からとらえた近代シルクロード史である。

 キップリングはノーベル賞作家で、“グレイト・ゲーム”は欧米では流行語とさえなったが、日本ではほとんど知られることがなかった言葉だ。つまり、一般日本人はシルクロードが情報戦争の舞台であるという意識を持っていなかった、ということである。

 学術探検の上では、ヘディンやスタインがまず華々しい成果を上げる。これに続いて、アジアの新興国、日本が参入し、西本願寺西域調査隊、いわゆる大谷探検隊が足を踏み入れる。

 著者はこの探検隊の行動に焦点を当てて、英露当事国が、日本政府から派遣されたスパイなのか、それとも民間主導のものなのか、疑心暗鬼に陥っていった様子を、新たな資料を使って描き出していくのである。

 長年の研究の積み重ねの中から、成熟するように浮かび上がってきた歴史像である。すべての地域を自らの足で歩いてきているので、舞台は鮮やかな映像として迫ってくる。

 (岩波新書 本体七四〇円)

増子耕一



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