蝶の舌
マヌエル・リバス著
先生に裏切られた小学生
一九三六年七月のスペイン北西部、ガリシア地方の小さな町が舞台。
主人公は、「スズメ」というあだ名の小学一年生のモンチョ。父は仕立屋、無神論者で共和国支持者のラモン。母は敬けんなカトリック信者で、共和派は教会の敵と信じている。
モンチョが小学校に入学した日、先生から名前を尋ねられ、あがってしまい「スズメ」と返答し、級友たちの大笑いを誘う。さらにそのとき漏らしてしまう。周囲の生徒たちのちょう笑に耐えず、教室から飛び出してしまう。
こうした学校生活のスタートだったが、幸いにも、「ヒキガエル」のような顔のグレゴリオ先生はとてもやさしく、自然観察のための野外授業は彼の心を満たす。この教育は、内戦前のカタルーニャで、非宗教的、私学的教育を実践したフランシスコ・フェーレルの「自由学校」をほうふつとさせる。ちなみに、グレゴリオ先生はフェーレルと同様、アナキストであった。
父親はグレゴリオ先生のサイズをとり、スーツを一着進呈する。
そして、七月十八日、「やあ、スズメくん、今年はついに蝶の舌が見られそうだよ」とグレゴリオ先生が言った日、ア・コルニャでの共和国政府に対する軍事叛乱のニュースがとどく。そして、この町でも、陸軍と治安警備隊が共和派を逮捕・拘留する。「建物の暗い出口から何人かの隊員に護衛されて、捕まった人々が出てきた。……(中略)繋(つな)がれた人々のしんがりに、背中の丸いヒキガエルみたいな顔の先生がいた」
母親に強くせがまれて、父親のラモンが「裏切者」「犯罪者、アカ!」と叫び、トラックが逮捕者を乗せて走り出したとき、モンチョも、石を投げながら後を追う少年たちの一人となっていた。
こうした情況は、われわれ外国人が文献などで知る(と思っている)スペイン内戦のぼっ発時の雰囲気と著しく異なる。だが、こうした無抵抗のまま叛乱軍に跪(ひざまず)く例も、歴史書には載らないものの、おそらく枚挙にいとまなし、であったろう。
(角川書店 本体一、〇〇〇円)
法政大学教授・川成 洋

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