書評
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痛みの治療

後藤文夫

身近な具体例を多く挿入

 本人の主観でしか感知できない「痛み」。医療は、この痛みをいかに弱めるかという模索の中で発達してきた。ところが近代に至ると、医療は器械や検査で数値化できない痛みをあまり重視しなくなった。だが、主観とはいえ、痛みは間違いなく感じられる。

 近年になってペインクリニックという分野が日本でも知られるようになった。診療科目としてはまだ新しい。ペインとは英語で「痛み」という意味。だから「痛みを専門に扱う診療科」となろうか。著者は、日本ペインクリニック学会の会長も務めたことがある、この分野の第一人者である。

 本書は、やや専門的なきらいもある。図や写真も多いが、それでもちょっと医学の授業というレベルだ。例えば、今日、痛みを伴う病気の分野では「COX」(シクロオキシゲナーゼ)という用語がよく登場する。COXの活性が抑制されると、鎮痛作用が働くというメカニズムが分かったからだ。この発見はまだ三十年ほど前のことであり、一般にはなじみの薄い言葉である。

 こうした硬い雰囲気を和らげているのは、具体例の挿入がふんだんにあることだろう。加えて、「私自身、若いときから肩こりと首の痛みに悩まされてきました」とか「私自身の歯の痛みと、鎮痛剤の効果を試した経験を述べてみましょう」などという、個人的な紹介が親しみやすい効果を出している。

 こうして本書は、第一部では、痛みのしくみと鎮痛剤の開拓史をつづり、第二部では頭から足先まで、体じゅうに発症する痛みをそれぞれ解明し、その治療法について述べる。第三部でがんの痛みを取り上げ、安楽死の問題についても触れた。

 著者は最後に、医学の父といわれるヒポクラテス(紀元前の医者)の「神の恵みは、痛みを治める業である」という言葉を引用しつつ、「なお原因のわからない慢性の痛みに苦しむ人は多く、痛みの研究は、二十一世紀における医療の最重要課題として引き継がれていかなければなりません」と結んだ。

 (中公新書 本体七六〇円)

岩田 均



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