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平成16年7月19日

核・生物・化学テロの脅威(上)

元陸上自衛隊化学学校長 井上忠雄氏に聞く

 日本でもテロの脅威が高まっているが、中でも甚大な被害をもたらすNBC(核・生物・化学)兵器を用いたテロには厳重な警戒が必要だ。そこで、元陸上自衛隊化学学校長の井上忠雄氏に、NBC兵器の特徴やそれに対する日本の危機管理の在り方などについて聞いた。
(聞き手=政治部・早川俊行)

核兵器が「大衆兵器」に

ダーティ・ボムも警戒必要

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 いのうえ・ただお 昭和10年、高知県生まれ。防衛大卒。同34年、陸上自衛隊入隊。同41年、大阪大大学院博士課程修了。工学博士。シカゴ大客員教授、ジュネーブ軍縮会議日本代表団員、防衛研究所教授、陸自化学学校長(陸将補)などを歴任。平成3年、退官。現在、防衛化学会会長。著書に『「テロ」は日本でも確実に起きる』。
 ――テロが新たな脅威となった背景は何か。

 今は、米国だけが軍事的にも経済的にも突出した、非常に不安定な時代だ。強い国と弱い国の差が極めて大きくなっている。国連も一部の国が大半の分担金を拠出し、残りは発言力のない貧乏な国ばかりだ。これでは国連は機能しない。特にブッシュ政権は、米国を中心とした世界をつくろうという色彩が非常に強い。

 弱い国が強い国に一矢報いようとすれば、昔のような国対国の戦争ではできない。卑怯(ひきょう)な手段を使うしかない。これが「ならず者国家」による大量破壊兵器の開発や国際的なテロにつながっている。

 ――最近のテロの特徴は。

 第一は、平時の市民社会への攻撃が増えていること。

 第二は、大量破壊兵器を使用する傾向が強まっていること。

 第三は、テロリストは母国を持たず、国内外のどこからでも攻撃ができること。携帯電話やインターネット、GPS(全地球測位システム)などの普及で、情報収集や交信が容易になった。昨日まで赤の他人であっても、協調的に攻撃を仕掛けてくる。

 第四は、大量殺戮(さつりく)。できるだけ多くの人を殺し、社会的パニックを起こそうとする。以前はテロリストにも「犠牲対効果」、つまりどの程度の犠牲を出せば、どれだけの効果があるかという計算が働いていた。だが、今は価値観が違う。何でもありの自爆テロが主流となり、対応が非常に難しい。

 ――テロへの使用が懸念される大量破壊兵器にはどのようなものがあるか。

 頭文字で言えば「NBCRE」だ。Nは核兵器(Nuclear)、Bは生物兵器(Biological)、Cは化学兵器(Chemical)。最近はこれに加えて、Rの放射能兵器(Radioactive)とEの高性能爆薬(High Explosive)がテロに使用される傾向が強まっている。

 ――放射能兵器とは。

 放射性物質と通常の爆薬を抱き合わせた兵器のことで、「ダーティ・ボム」(汚い爆弾)とも呼ばれる。原子力発電所の放射能廃棄物や病院の放射線療法の排出物、ジャガイモなど食物照射で使用する放射性物質など、放射能兵器の材料は手に入りやすい。米国ではこれらの放射性物質が盗まれる事件が、毎年二百件くらい発生しているそうだ。

 核兵器と違い、爆風や熱線は生じず、放射能だけがまき散らされる。一般市民は放射能に恐怖心を持っているため、少量でもパニック性が強く、経済的ダメージも大きい。

 放射能は無害化する方法がないため、被ばくした人は生涯健康に悩まされ、汚染された地域はしばらく人が住めなくなってしまう。

 ――核兵器をアルカイダのようなテロ組織が保有・使用する可能性はあるのか。

 最近は核に関する情報が氾濫(はんらん)しており、詳細な技術情報が書籍やインターネット、技術者から入手できる。「最終兵器」である核が、イラクや北朝鮮に及ばない中小国家やテロ集団でも入手できる「大衆兵器」になりつつある。

 また、ソ連は冷戦末期に「スーツケース入り核爆弾」を数百から数千個造ったという話がある。それが拡散している恐れもある。


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