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平成17年8月24日

ライフサイエンス新潮流 機能性RNAプロジェクト(1)

 たんぱく質に翻訳されないノンコーディングRNA(ncRNA)はかつてがらくた扱いされていたが、今、世界の生命科学研究者の熱いまなざしが注がれている。中でも、マイクロRNAは発生・分化や癌(がん)化とも関係していることが明らかになってきたからだ。しかし、まだ多くのncRNAは未解明であることから、経済産業省は日本が今後の特許獲得競争で優位な立場を確保することを目指し、五カ年で五十億円(予定)を掛ける産官学共同研究「機能性RNAプロジェクト」をスタートさせた。同プロジェクトの意義や狙いなどを探った。
(経済部・原田 正)

国が主導する背景

世界でncRNA探し激化
生命科学研究の草刈り場に

 RNAには馴染みのない人も多いが、DNAの遺伝情報のコピーと考えれば分かりやすい。ただ、DNAは二重鎖だが、RNAは一本鎖(注)。代表例は、たんぱく質設計図情報を伝えるメッセンジャーRNA(mRNA)だ。

 ncRNAとは何者かを理解するには、まずmRNAとは何かを知ることが必要だ。

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 図の左上側のように、ヒトを含む真核生物の遺伝子の多くはDNA上で、群島のように散在。たんぱく質のアミノ酸配列情報に対応したエキソンが“つなぎの部分”のイントロンを挟んで飛び飛びで並んでいる。

 遺伝子は発現の過程で、いったんエキソン、イントロンが一続きでRNA鎖に写し取られて(転写)、mRNA前駆体となるが、同前駆体のイントロンの部分は切り取られ(スプライシング)、mRNAとなって細胞質に入る。次いで、mRNAはその塩基配列の暗号に対応してアミノ酸配列に置き換えるたんぱく質合成装置リボソームにより、たんぱく質が作られる(翻訳)。この「DNA→mRNA→たんぱく質」という流れは分子生物学の根幹にあるセントラルドグマ(中心命題)と呼ばれるものだ。

 mRNAはDNAの遺伝子からたんぱく質への情報の橋渡し役だ。これに対して、ncRNAは、DNAの一部の転写物ではあるが、たんぱく質の情報を運んでいないRNA分子のことだ。アミノ酸の運び役のトランスファーRNA、リボソームで中心的役割をするリボソームRNA以外にも多く存在することは以前から認識されていた。

 「ncRNAは、がらくたのように思われていました。四、五年前には、文科、経産、厚労省の関係する研究機関は皆、たんぱく質に焦点を当てた研究をしていたのです」(多喜田圭二・経済産業省生物化学産業課長)

 なぜか。セントラルドグマの下、たんぱく質だけが生体の機能を決め、制御しているという誤解に支配されていたからだ。

 しかし、ヒトゲノム解読後の解析は意外な結果をもたらした。ヒトの遺伝子は二万二千。一方、線虫は一万九千、ショウジョウバエの場合も二万と、遺伝子数はさほど変わらない。これでは人間の高等さは説明できないし、十万種以上といわれるたんぱく質の数にも対応していない。

 これを一部説明するのは、一つの遺伝子から、エキソンの組み合わせによって複数のたんぱく質ができる「選択的スプライシング」だが、もう一つのカギはncRNAである可能性が高いのだ。

 プロジェクトリーダーを務める渡辺公綱・産総研生物情報解析研究センター長(日本RNA学会長、東大名誉教授)は図(下図円グラフ)を用いてこう説明する。

 「遺伝子部分はヒトの場合でも全DNA配列中わずか2%程度。しかも、転写されるがたんぱく質をコードしない領域の全ゲノムに対する比率は、大腸菌1%、パン酵母10%、線虫30%と高等になるほど高くなり、ヒトの場合は43%。ncRNAの多さがヒトの高等さに寄与していることが明らかになったのです」

 実際に、ここ数年で生体内で重要な働きをしているマイクロRNAなどのncRNAが次々発見され、機能性RNAと呼ばれるようになった。ncRNAが生命科学の主役に躍り出たのだ。

 しかし、非常に多くのncRNAは未解明であり、今後発見・単離して、発現制御、細胞分化誘導などの機能を解明すれば特許化でき、さらに医療、再生工学などへの産業応用が期待される。

 今、集中的に取り組めば、成果が続々と生まれる可能性の高い「草刈り場」であり、日本も出遅れることはできない。こうしたことが「機能性RNAプロジェクト」が生まれた背景にある。

(注)部品も一部異なる。DNAの糖はデオキシリボースで、RNAの場合はリボース。DNAの塩基はA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)。RNAの場合、A、G、Cは同じだが、Tの代わりにU(ウラシル)。


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