日と月の運行を古代人は「生と死」の想念で…


 日と月の運行を古代人は「生と死」の想念で理解してきた。日没は太陽が冥界にこもることで「死」、日の出は「再生」であった。月も同じで「月隠(つごもり)」は闇夜をもたらす死、月の初めが「朔日(ついたち)」で再生を意味した。

 大晦日(おおみそか)は「大つごもり」ともいい、月の死と再生が繰り返されて大つごもりとなる。年は古い一年の命を葬って、新たに生まれて新年となる。寺院で大晦日の夜に行われるのが追儺式で、正月に行われるのが修正会だ。

 奈良時代からの行事で、気流子が比叡山延暦寺で体験したそれは、ドラマを見るように感銘深かった。根本中堂から、むさぼり、怒り、妬(ねた)みを表す3人の鬼が出てきて、錫杖(しゃくじょう)を持った修行僧が改心させていく。

 人も国もその年に犯した悪行を贖罪(しょくざい)して、吉祥を祈り、新しい年を迎える。今年は新型コロナウイルス対策のため、参拝者の人数が制限される。大根炊きも「牛王印」をおでこに押す行事もない。

 それでも正月の3日間、正月祈祷(きとう)が第一座から第十九座まで開かれる。今年はこの疫病に世界中で8000万人以上が感染し、約180万人が死亡した。経済や産業への打撃も甚大だ。正月祈祷には常にない切実な思いがある。

 国宝である根本中堂は今、大改修中。屋根の葺(ふ)き替えや塗装彩色が進行している。参拝は可能で、修学ステージにより屋根の高さから見学もできる。行事は人数が制限されるが、ユーチューブで生配信されるという。新たな式典の形態だ。