平成20年10月21日

不透明さ続く国際金融情勢

経済悪化で膨らむ不良債権処理/公的資金注入と「いたちごっこ」

 今月十日の七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で米国と欧州の政府による民間金融機関への公的資金による資本注入が打ち出され、各国が実行に移し始めたことから、「国際金融不安は和らぎ、焦点は景気動向に移った」と言われることが多い。しかし、米国政府が公的資金を賄うための追加の米国債発行が財政の負担になることなどから、市場の一部には米国債やドルに対する信認問題も出てきており、国際金融危機の終息にはまだ時間がかかりそうだ。
(編集委員・野村道彰)

デリバティブ清算も難題

 今回の国際金融不安の“震源地”、米国。米政府は今月三日成立した金融安定化法で、総額七千億j(約七十兆円)もの公的資金を、民間金融機関への資本注入や金融機関が抱える不良債権の買い取りに充てることになっている。このほか、住宅専門金融機関のフレディマック(米連邦住宅貸付抵当公社)とファニーメイ(米連邦住宅抵当金庫)に対する総額二千億jの公的支援枠など、少なくとも一兆五千億jに上る大量の公的資金を金融システムの「安定」のために使う。そのため、財務省は大量の米国債を追加発行しなければならなくなっている。

 しかし、米国の今年度(二〇〇八年度)財政赤字は四千五百四十八億jと巨額に上っており、同赤字を賄うための米国債は、国内の貯蓄不足のため、主として日本や中国など海外勢に引き受けてもらっている状況だ。いくら、米国債が世界最良の信用度を持つと言っても、海外勢がすんなりと引き受けてくれるか、疑問との見方も強い。

 しかも、米国の金融システムを安定化させるために投入しなければならない公的資金は今後、さらに増加することが予想される。その理由は第一に、二〇〇六年六月に始まった住宅バブルの崩壊はまだ三−四合目で、一〇年まで続くと見込まれている。その過程で新たな不良債権が発生しよう。

 第二に、世界経済が同時不況の局面に入ったため、金融機関の貸し渋り、貸しはがしが表面化することと相まって、企業倒産が多発、金融機関の抱える優良債権が劣化することが見込まれる。「実体経済の悪化が予想外に進めば、不良債権額が膨張し、欧米金融機関への公的資金注入が追加して実施される展開も予想される。不良債権処理と資本増強のための注入が『いたちごっこ』のように繰り返される可能性を指摘する声も国内金融機関からは出始めた。世界的な金融不安の霧は深まるばかりだ」(ロイター通信)。

 第三は、今回の国際金融危機を複雑かつ深刻にさせている金融派生商品(デリバティブ)の規模が不透明で、金融機関が抱え込んでいる不良債権の規模がなかなかつかめないことである。特に懸念されているのは、企業の倒産に備えるための一種の“保険商品”であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)。CDSの想定元本(企業が破綻し、債務不履行に陥った場合にCDSの売り手側が買い手側に支払わなければならない金額)は現在、約六十兆j(約六千兆円)といわれている。

 米投資銀行リーマン・ブラザーズのようにCDSの対象になった企業が経営破綻すれば、国際スワップデリバティブ協会(ISDA)の下でCDS清算会を開く必要がある。リーマンの場合は、CDS同士や手数料の相殺があるということで、実際の現金の受け渡しは保証元本(約四千億j=約四十兆円)のうちの2%(約八十億j=約八千億円)ということになり、取りあえずは混乱は生じなかった。しかし、2%は少な過ぎるという市場の疑心暗鬼もある。

 日本の経済財政諮問会議の民間議員は十七日、米欧を中心とした現在の世界的な金融危機に対応するため、CDSなどデリバティブ取引の決済リスクを軽減する清算機関の設置を提言したが、「具体的にどうするかは、問題が奥深く、簡単に決済の仕組みは考案できない」(与謝野馨経済財政担当相)。

 市場では、米国債やドルに対する信認問題が出てきている。「市場関係者が最も強く警戒しているのは、ドル全面安への発展だ。全世界的なドル供給策で『少しずつドルに余剰感が出始めてきた』(市場筋)一方で、米国の金融危機は収束への道筋がまだ不透明。同時に、米政府による金融機関への公的資金注入で、米財政赤字は悪化の一途をたどっている。さらに回復の兆しが見えない米景気、新政権が打ち出すとみられる景気刺激策による政府負担増、大幅な金利引き下げによる資金流入減と経常赤字のファイナンス問題など、ドル相場を維持する環境は着実に悪化しているとの見方だ」(ロイター通信)。

 国際金融危機が終息するまで、まだ時間がかかりそうだ。


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