平成16年10月6日
郵政民営化の問題点(上)
若杉敬明東京経済大学教授に聞く
第二次小泉改造改革がスタートした。この内閣が改革の本命として取り組もうとしている郵政民営化問題。先月十日に民営化の基本方針を閣議決定し、その法案化に向け、五日には全閣僚参加による郵政民営化推進本部が初会合を開いた。ただ、この問題には自民党内をはじめ、国民にも反対の声が多い。郵政民営化の問題に、総理の懇談会からかかわってきた若杉敬明東京経済大学教授に聞いた。
(聞き手=経済部・床井明男、原田 正)
目的曖昧で法案化に危うさ
景気、経済強化に結び付かず
郵政民営化推進本部初会合であいさつする小泉純一郎首相(右端)。左へ竹中平蔵郵政民営化担当相、谷垣禎一財務相=5日午前、首相官邸
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――閣議決定された郵政民営化の基本方針について、全体的にどう評価するか。
そもそも、何のために民営化するのか、ということがはっきりしていない。目的がはっきりしていれば、そういう観点から、こういう組織が良いとか言えるわけだが、それがない。
――竹中平蔵郵政民営化担当相は、郵政民営化の根拠として規模が大きい、郵貯や簡保は自主運用で損を出したときに国民の負担になる、事業が非効率、などの点を指摘しているが。
そういうネガティブなことを言っているだけで、民営化すれば、こんなに良いことがあるという議論がない。そこが、国民みんなに、何のために民営化をやるのか、結構便利に利用しているのに、なぜ、と思われる理由になっている。
――基本方針では、事業を四つに分けるということだが。
今一緒にやっているものをなぜ、わざわざ、バラバラにしなければいけないかという理屈もはっきりしない。
私は郵政民営化の総理懇といわれた懇談会のメンバーの一人だったが、そこでは、先ほどあった公社に関するネガティブな議論ではなくて、民営化すれば、いままでできなかった、こんなプラスがある、という議論をして下さいと座長で経済評論家の田中直毅さんにお願いしたが、そういう議論にはならなかった。それが、そのまま続いて、経済財政諮問会議で行っている議論もそれ以上のものが出ていない。理論上は民営の方が官営より優れている、そういう観念的なことだけで民営化して良いかどうか。目的が明確でないまま組織をいじっても意味がない。
――国鉄の民営化では、赤字垂れ流しの放漫経営を解決するという明確な目標があった。
小泉純一郎総理は以前から財投改革をやりたい意向を持っておられる。郵貯や簡保のカネが財投に流れているので元を断とうと。郵政を民営化すれば、財投へ流れていかないのではないかということだが、現実には銀行も保険会社もほかに資金の運用先がなくて国債を買っている。そんな状況の中では、いくら民営化しても、郵貯や簡保としても、国債を買うしかなく、財投の基を断つことはできない。本当に財投の非効率性を断ちたいのなら、財投の徹底的な改革をやらなければいけない。
――郵政民営化で日本の経済は良くなるのか。
今一番の問題は日本の経済をどうやって立て直すかだが、郵政を民営化して、日本の経済が良くなるという道筋が何もない。それを理屈付けられていないところが、今の民営化論議の弱い所だ。
国民の金融資産は現在千四百兆円ある。そのうち郵貯が二百二十兆−二百三十兆円、簡保が百二十兆円、公的年金が百五十兆円で、全部で五百兆円近いおカネが国に流れているというのは、やはり異常だ。だから、これは縮小しないといけないのだが、これほど大きくなったのは、郵貯や簡保が素晴らしいからではなく、民間がだらしなかったからだ。
一九九〇年代にバブルの崩壊で民間の金融機関が信用を失ったためにみんな、心配だからといって郵貯、簡保に行ったわけだ。だから、大事なことは郵政民営化より、民間の金融機関を立て直して、もっと信頼できる金融機関にすることだ。
――基本方針は閣議決定され、今後は法案化されていく。首相は来年三月の法案提出を目指しているが。
目的がないままに進めていっても、うまくいくはずがない。先行きを大変懸念している、危ういとしか言いようがない。
――金融機関や生保、ヤマト運輸は、民業圧迫を声高に叫び、郵政事業の民営化を求めている。
民営化するにしても、今言ったように、銀行や保険会社がだらしないから郵貯や簡保にお金が向かったわけだから、民間金融機関は、「こんなに大きいのが参入してくるのだから、頑張らないといけない」と思うようでないといけない。だから、民営を圧迫するようなものでないと意味がない。民営化するなら、今の三事業一体のままでやるべきだ。それでも負けないような民間の金融機関や保険会社になって欲しいし、ヤマト運輸などにも頑張ってほしい。