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平成16年8月16日

中国の海洋戦略

川村研究所代表元海将補 川村純彦氏に聞く (上)

 中国が東シナ海の日中中間線付近で天然ガス田の開発を始めたり、日本の排他的経済水域(EEZ)内で違法調査を行うなど、日本の海洋権益が脅かされている。そこで、沖縄の海上自衛隊第五航空群司令として東シナ海の警戒・監視に当たった経歴を持つ川村純彦・川村研究所代表(元海将補)に、中国の海洋戦略や今後の台湾海峡情勢などについて聞いた。
(聞き手=政治部・早川俊行)

85年から外洋海軍目指す

ヒトラーと同じ拡大理論

picture  かわむら・すみひこ 昭和11年、鹿児島県生まれ。防衛大卒。同35年、海上自衛隊入隊。対潜哨戒機パイロット、在米日本大使館防衛駐在官、第5航空群司令、第4航空群司令、統幕学校副校長などを歴任し、平成3年退官。現在、川村純彦研究所代表、岡崎研究所副理事長などを務める。
 ――中国の積極的な海洋進出は、どのような戦略に基づいているのか。

 現在、改革・開放政策を推し進める中国は、もともと大陸国家であり、毛沢東時代までは「人民戦争戦略」を採っていた。これは、中国の広大な国土に敵を誘い込み、ゲリラ戦で殲滅(せんめつ)するという戦略で、つまりベトナム戦争のような形態を想定していた。

 しかし、八〇年代になると、自国に甚大な被害をもたらす人民戦争戦略では、世界の趨勢(すうせい)に対応できないと判断するようになった。そこで、当時の最高実力者・トウ小平は、国土の外側で敵を迎え撃つという「積極防衛戦略」を打ち出した。

 トウ小平の戦略の範囲を海洋に広げたのが、海軍司令員(総司令官)・劉華清だった。彼は八〇年代半ばに「近海積極防衛戦略」を提唱し、海軍の防衛範囲を外側に広げていく努力を開始した。日本周辺海域で活発化する中国艦船の活動は、こうした戦略の一環と見ることができる。

 ――中国海軍は「外洋海軍」を目指しているといわれるが。

 八五年の中央軍事委員会の決議で、領土主権とともに海洋権益の擁護が初めて公式に承認された。この決議が、それまで陸軍の作戦支援を主任務としていた海軍を沿岸海軍から外洋海軍へと進ませる根拠になった。

 戦略の変化により、各軍の重要度にも変動が生じ、最下位だった海軍の地位が最上位の陸軍と逆転した。海軍においては、ロシアからソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦、キロ級潜水艦、スホイ27戦闘機を輸入し、近代化が進められている。

 ――中国海軍は具体的にどのような目標を持っているのか。

 作戦海域を近海と外洋の二つに分けている。近海の範囲は、日本から台湾、フィリピン、マラッカ海峡までで、これを「第一列島線」と位置付けている。外洋の範囲は、小笠原諸島、マリアナ諸島などを含む「第二列島線」だ。

 中国海軍は、二〇〇〇年までに近海防衛の艦隊を建設し、二〇二〇年までに外洋での行動能力を確保することを目標にしている。

 ――中国の行動には、国連海洋法条約など国際法を無視したものも目立つ。

 改革・開放政策の結果、中国は閉鎖的な大陸国家から海洋に依存する通商国家へと変化した。そのため、沿海部の経済都市の防衛や海洋資源の獲得が必要となり、海空軍力を背景に国防圏を自国からできるだけ遠い海空域にまで拡大することを狙うようになった。この戦略を裏付ける理論が、「戦略国境」という概念である。これは、そのときの国力や国際環境によって国境は変わるという考え方だ。

 ヒトラーはかつて、「国家が生存発展に必要な資源を支配下に収めることは、成長する国家の正当な権利である」として、近隣諸国の併合を正当化したが、これと全く同じ論理だといえる。中国はこの戦略国境を拡大するために、外洋で行動できる海軍力の整備を進めている。

 ――中国が東シナ海で建設を進めている天然ガス採掘施設は日中中間線の中国側だが、戦略国境の理論だと、いずれ日本側海域でも資源開発を始めるのでは。

 戦略国境の考え方からいえば、それは当然のことだ。現在、中間線から中国側四、五キロのところで開発を行っているが、中国は中間線を全く認めていない。中国の大陸棚は沖縄のすぐそばの沖縄トラフ(海溝)まで続き、そこまでが中国のEEZだと主張している。

 中国がまだ日本側海域で開発を行わないのは、現在、中国にそれができるだけの海軍力がないことと、日本の海上自衛隊の防衛力が抑止しているからだと見ていい。


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