日米で核・拉致包括解決推進


米朝決裂 (4)

 安堵(あんど)と戸惑い。2回目の米朝首脳会談が事実上の決裂で終わったことに対し、日本政府が最初に示した反応だ。

 トランプ米大統領が金正恩朝鮮労働党委員長の中途半端な非核化案で妥協しなかったことへの安堵と、核・ミサイル問題解決を前提として、練り上げられた拉致問題解決への道筋が不透明になったことへの戸惑いだ。

 2月28日夜、トランプ氏と電話会談した後、安倍晋三首相は拉致問題について、トランプ氏が27日の1対1の会談と夕食会の2回、首相の考え方を金正恩氏に伝え、夕食会では真剣な議論が行われたことを報告するとともに、「次は、私自身が金正恩委員長と向き合わなければいけない」「今後とも、拉致、核、ミサイル問題の解決に向けて日米でしっかりと緊密に連携していく」と表明した。

 会談は決裂したものの、従来通り、トランプ氏と共に拉致、核、ミサイル問題の包括的な解決に取り組んでいくとの決意表明に他ならない。

 拉致問題解決に向けた政府の基本方針は、「拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、国交正常化を図る」というもの。しかし、北朝鮮の核・ミサイル危機が高潮する中で、長く拉致解決の見通しが立たない時期が続いた。

 そんな閉塞(へいそく)状況を一変させたのが昨年6月の米朝首脳会談だ。朝鮮半島の完全な非核化が合意され、核問題解決への期待が高まった。

 トランプ氏は非核化に掛かる費用について「韓国と日本が払う」と述べたが、日本には500億㌦を拠出させる約束を金委員長と交わした(本紙2018年6月25日付)とも言われている。

 政府は本紙の報道は否定したが、トランプ氏の北朝鮮非核化プロセスに資金面で関与していくことについては、むしろ拉致問題解決のための「チャンス」と捉えている。

 北朝鮮が欲しいのは、経済支援だが、日本がそれを実行できるのは国交正常化後。ならば、米主導の非核化プロセス(の資金面)で重要なステークホルダーとなって、米国と共に拉致、核、ミサイル問題の包括的な解決を目指す方が、発言力も増して、より有利な立場に立てるというわけだ。

 安倍首相は今年1月、施政方針演説で、関係悪化が続く韓国への言及は「一言」にとどめる一方で、ロシアとの平和条約交渉(北方領土問題の解決)とほぼ同じ分量を割いて、「北朝鮮との国交正常化を目指す」と言明している。

 拉致被害者家族会と救出運動を行う「救う会」は米朝会談の10日前(2月17日)、全拉致被害者の即時一括帰国を求める金委員長宛てのメッセージを発表し、「帰ってきた拉致被害者から秘密を聞き出して国交正常化に反対する意志はない」と表明した。

 拉致被害者の帰国が「(対日・対韓工作の)機密漏洩(ろうえい)」につながることを恐れる北朝鮮に対し、まず被害者家族らが「心配無用」と約束したわけだ。翌々日に家族らと面会した安倍首相も、「このメッセージに込められた皆様の思い」をしっかりと受け止めると語り、家族会の意向を政府が裏書することを示唆した。安倍首相の外交手腕が問われている。

(政治部 武田滋樹)

(終わり)