「国内論理」での説明に限界 韓国世宗研究所日本研究センター長 陳昌洙氏(上)


2014世界はどう動く
識者に聞く(12)

日韓関係

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ジン・チャンス 1961年生まれ。西江大学政治外交学科卒、東京大学大学院国際関係論修了(政治学博士)。韓国屈指の日本研究家として知られる。著書に『日本の政治経済』など多数。

 ――まず昨年の日韓関係を振り返ってどのように評価するか。

 1年前は日本で安倍晋三首相、韓国で朴槿恵大統領という新しいリーダーが誕生し、両国関係改善に期待感が広がったが、朴大統領の就任式に出席した麻生太郎副総理兼財務相が歴史認識をめぐり朴大統領とちょっとした口論となり、それが響いて3月1日の独立記念日の演説で朴大統領は「加害者と被害者の立場は千年たっても変わらない」と語るなど、日本に対し厳しい姿勢を前面に出し、両国関係は一挙に冷え込んでいった。

 その後、安倍首相をはじめ日本の政治家たちの発言に対する韓国側の反発がしばらく続いたが、秋ごろからは韓国内でも「日本との関係をこのまま放置していいのか」という声が上がった。政府間の対話が始まり、メディアも特に韓国でそれを後押しするような論調を出し始めた。日韓関係の流れが改善の方向に向かうかに見えた矢先に起きたのが安倍首相の靖国神社参拝だ。夫婦に例えると、韓国としては離縁状を突き付けられたような衝撃だったと思う。

 ――安倍首相は靖国参拝の真意は中韓を傷つけるためのものではない、と語っている。また外交問題に発展させたくないという考えだ。

 安倍首相自身の信念に基づいた心の問題だという日本側の説明はある程度理解できる。ただ、日韓では認識のズレがあり、特に韓国にはA級戦犯や旧日本軍の軍人・軍属として戦没した韓国人を合祀(ごうし)していることへの反発が根強く、日本の「国内論理」で中韓に説明するには限界がある。何よりも私が悔しいのは、参拝が日韓改善の流れが出始めていたタイミングでの出来事だったことだ。

 ――朴政権は主要国外交で日本とだけ首脳会談ができずにいる。関係が悪い時でもトップ同士の対話は必要なのでは。

 朴政権は安倍政権に「歴史を直視する」ことを首脳会談の前提条件として求め続けた。具体的には靖国神社に参拝しないことや独島(竹島の韓国名)領有権で韓国を刺激しないことなどだ。日本はそのような条件はのめないという立場だったので、韓国としてはそれでは首脳会談後に何かしらその部分で誠意を見せてほしいということを伝えた。懸案をめぐり双方が妥協するということが模索されたが、結局はうまくいかなかった。

 ――それにしても朴大統領は根っからの「反日」ではないのかという憂慮の声が日本で上がっているが。

 朴大統領は父親(朴正熙元大統領)が親日派と呼ばれたことで、自分にもそういうレッテルが貼られることを警戒しているのは確かだ。だが、だからといって根っからの反日というわけではないと思う。朴大統領の哲学を見ると「約束」や「信頼」を最も重視していることが分かる。

 安倍首相は、戦後50年の節目にアジア諸国に対する植民地支配の過ちを認め、反省の意を表した村山談話など過去の政権による「約束」を無視するような言動で「信頼」を裏切っているという思いが朴大統領の胸中にはある。今回の靖国参拝でさらにその思いは強まったかもしれない。

 それが前提にあった上で政治的な判断なども加味されているだろう。韓国は今年6月に統一地方選があり、安倍政権に対する厳しい姿勢は当分続くかもしれない。

(聞き手=ソウル・上田勇実)