軍・秘密警察へ働き掛けを 韓国治安政策研究所上級研究官 柳東烈氏(下)


2014世界はどう動く
識者に聞く(11)

北の変化

400 ――ナンバー2粛清という大事件を経た今年の金正恩体制をどう展望するか。

 傍目(はため)には安定しているように見えるが、それは極端な恐怖政治に基づくものだ。金第1書記自身も自分の身に危険が及ばないか常に警戒するようになったはずだ。体制維持にとって重要なのは食の問題を解決できるかということだが、金第1書記に対し悲惨な食糧事情など正確な報告が上がっていない可能性があり、判断力も劣っている。コメが不足しているという報告を受けた金第1書記は「それなら肉を食べさせればいい」と言ったという。現在の北朝鮮に住民が十分食べるだけの肉がどこにあるというのか…。

 金第1書記は昨年、「紋繍(ムンス)プール」や「美林(ミリム)乗馬クラブ」、「馬息嶺(マシンニョン)スキー場」といった大型の豪華娯楽施設を完成させ、今年の新年の辞にもあるように自己満足に浸っているが、巨額の資金が投資されたこれらの施設を利用できるのは北朝鮮の約2400万人のうち2%にも満たないのではないだろうか。

 どんな暴君でも経済さえうまく回転していれば政権維持はできるが、北朝鮮の場合は政権に対する住民の不満は募る一方だ。

 ――体制維持には中国の協力が欠かせない。

 中国が望んだのは北朝鮮のような閉鎖的社会の中にあっても柔軟な発想を持つ張氏との協力だった。一昨年、張氏が訪中した際は国賓級の待遇だった。訪中最終日に仕方なく習近平国家主席が会ってあげたような印象だった崔竜海・軍総政治局長とは格が違う。金第1書記の訪中の可能性が取り沙汰されてきたが、核を放棄して6カ国協議に応じるか、改革・開放に踏み出すかなど、中国が喜ぶ“贈り物”なしに習主席が金第1書記との首脳会談に応じるか極めて疑問だ。

 ――金第1書記は先の新年の辞で韓国に南北関係改善を呼び掛けた。

 いつも行動が伴わないのが北朝鮮だ。韓国は今月末の旧正月に合わせて離散家族再会を提案したが拒否された。北朝鮮はこれまでも韓国側が受け入れられないような条件を付け、少しでも自分たちが得をするように韓国を利用してきた面がある。

 警戒しなければならないのは今年も挑発の可能性が高いことだ。特にサイバーテロは攻撃の原点を突き止められるまで時間がかかり、証拠をつかみにくいので要注意だ。北朝鮮としては低コストで韓国社会に甚大な影響を及ぼすというメリットを感じている。今年も新しい脅威をつくり出すことで国内の危機を克服しようとするだろう。

 ――朴槿恵大統領は新年の記者会見で南北統一に向けた準備に意欲を示した。日韓をはじめ周辺国は北朝鮮にどうアプローチすべきか。

 対話を通じて核を放棄させる?改革・開放に向かわせる?核は金第1書記も逆らえない北朝鮮の遺訓事業だ。改革・開放も最終的には金氏王朝が既得権を放棄しなければならない。唯一の道は独裁政権に代わる政権に交代してもらうことだ。まだ洗脳状態に近い北朝鮮の住民が「ジャスミン革命」など一連の中東諸国の民衆蜂起のように覚醒し、組織化し、政権打倒運動を起こすにはあまりにも時間がかかり過ぎる。

 その時間を前倒しさせる方法は、恐怖政治と共に独裁政権を支える軍や、監視・密告システムを担う秘密警察を変えることだ。南北統一を真剣に考えるなら、私はあえて北朝鮮にレジームチェンジを働き掛ける対北工作を実行に移すべき時だと言いたい。

(聞き手=ソウル・上田勇実)