首相欧州歴訪、国際秩序守るため連携強化を


 安倍晋三首相がスペイン、フランス、ベルギーの欧州3カ国を歴訪した。

 フランスではマクロン大統領と会談。会談に先立ち行われた共同記者発表で、首相は中国の海洋進出を念頭に「国際秩序が挑戦される中、両国の協力はより重要だ」と述べ、フランスとの海洋安全保障協力を強化する考えを示した。

ベルギーで国際会議出席

 フランスは南太平洋のニューカレドニアやタヒチなどの領土を持つ太平洋国家で、南シナ海を含むシーレーン(海上交通路)への関心は強い。航行の自由を守るため、自由や民主主義などの基本的価値を共有するフランスとの連携を深めて中国を牽制(けんせい)する必要がある。

 首相が掲げる「自由で開かれたインド太平洋戦略」では、フランスを太平洋地域での重要なパートナーと位置付けている。

7月には自衛隊とフランス軍の間で相互に食料や燃料を融通する物品役務相互提供協定(ACSA)に署名した。今後も安保協力を一層強化すべきだ。

 一方、首相はベルギーのブリュッセルで開かれたアジア欧州会議(ASEM)首脳会議に出席。米国の保護主義的政策や中国の強引な手法に対抗し、世界貿易機関(WTO)体制を主導する考えを示した。

 日本と欧州連合(EU)は7月、経済連携協定(EPA)に署名した。これについて、首相は「自由貿易の旗手として日本とEUが共に手を携えて推進することを示すものだ」と指摘。その上で、米中貿易戦争を念頭に「一方的な貿易措置の応酬はどの国の利益にもならない」と自制を求めた。

 トランプ米政権は、中国による知的財産権侵害を理由とする制裁関税を発動。中国からの年間輸入実績(約5000億㌦)の半分に制裁を科した。これに対して中国も報復措置を取っており、過熱する貿易戦争の出口は見えない。

 ただ、中国による進出企業への技術移転強要や中国企業に対する補助金の支出問題などをめぐって、WTOの対応が不十分だったことは確かだ。トランプ大統領がWTOに不満を募らせていることが、貿易戦争の原因の一つとなっている。

 首相はEUのユンケル欧州委員長との会談で、WTOの監視機能強化などの改革に向けて日本とEUが連携することで一致した。世界経済の成長のためには、保護主義ではなく、WTOに基づく自由貿易体制の堅持が求められる。

 ASEM首脳会議で、首相は質の高いインフラ整備の在り方にも言及。「透明性や債務の持続可能性の確保といった要素が重要で、国際スタンダードとしていくべきだ」と強調した。中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」で、返済困難な巨額のインフラ整備が問題視されていることを念頭に置いたものだ。

中国の動きに対抗を

 中国は一帯一路を通じ、欧州でもインフラなどへの投資を活発化させており、EU域内では警戒感が高まっている。

 首相は欧州との連携で、こうした中国の動きに対抗する必要がある。