来秋の消費増税、全世代型社会保障へやむなし


 安倍晋三首相が2019年10月の消費税率10%への引き上げについて、予定通り実施すると表明した。先の自民党総裁選などで訴えた「全世代型社会保障」の実現に向けた財源を確保するためである。増税による経済への悪影響は懸念されるが、景気腰折れを防ぐ対策や軽減税率の導入を準備し、持続的な社会保障制度の構築に向けた道筋を付ける。増税は好ましくはないが、やむを得まい。

これまでに2回延期

 安倍首相は14年4月に5%から8%への消費税増税を実施して以降、10%への税率引き上げは2回延期してきた。

 8%への税率引き上げでは、消費者の負担増が大きい住宅や自動車などの高額品を中心に駆け込み需要の反動減が予想以上に長引き、デフレ脱却の途上にあった景気の勢いを完全に止めてしまったばかりか、その後も低迷を長引かせる要因となった。その意味で、2回の増税延期はさらなる悪化を防いだという点で妥当であった。

 首相が今回、来秋の増税実施を決断したのは、その反省に立った対応を準備した、あるいは準備するからである。反動減などに備えた景気対策と、軽減税率の導入である。

 個人消費の落ち込みを防ぐため、首相は自動車、住宅の購入支援の減税策のほか、クレジットカードなどを用いて中小の小売店で買い物をした顧客にポイント還元する制度の創設検討を指示。関連予算を19年度予算案に計上する。

 また来秋の増税では、食料品など生活必需品の税率を8%に据え置く軽減税率を初めて導入する。軽減税率という複数税率に対応するレジの改修は、中小の小売店などにとって金銭的な負担が大きい。来年は参院選もあり、過去の増税延期の経緯からレジ改修を控えている小売店も少なくない。首相が今回、実施予定の1年前という早い時期に決断を表明したのも、小売店に周到な準備を促す狙いがあるからである。この点でも首相の対応は評価できる。

 増税の目的は、首相が昨年10月の衆院選や、先の自民総裁選で公約した「全世代型社会保障」の財源確保である。経済成長による税収増加で確保することが安倍政権の基本的考え方だが、税の自然増収だけで賄うにはまだまだ不足であるからだ。

 今回の「全世代型」では幼児教育・保育無償化などが目玉になっているが、社会保障制度そのものが少子高齢化の急速な進行により、持続性を不安視されている現状である。

 今回の増税はその意味で、単に幼児教育・保育無償化などの財源確保に終わらせるのではなく、医療制度の抜本改革など持続的な社会保障制度の構築に向けた改革を同時並行的に進めていくことが肝要である。

過大な対策は主客転倒

 日銀の試算によれば、消費税率が一律に5%から8%に引き上げられた前回増税時に比べ、軽減税率が導入される来秋の増税による負担増は、約3分の1から4分の1にとどまる。

 無論、想定外の事象も起こり得る。対策に万全を期すことは大事だが、過大になっては主客転倒である。