避難訓練中止、危機管理上極めて拙劣だ


 政府は北朝鮮の弾道ミサイルを想定した住民避難訓練を、先の米朝首脳会談で緊張緩和が進展しているとして中止することを決めた。

 危機管理上、極めて拙劣な対応と言わねばならない。

 日朝首脳会談を念頭に

 国際情勢が緊迫化している状況下で、軍事演習や軍事力拡大を行うことは、より緊張を増大させることになる。例えば、第1次世界大戦はオーストリア・ハンガリー帝国の皇位継承者の暗殺事件がきっかけだが、それが世界大戦に発展したのは、緊迫状況下でロシアが総動員令を出し、それに各国が呼応したためである。

 つまり、国際情勢緊迫化の際には、敵性国家が疑惑を抱くような軍事的行動は避けるべきである。だが、現在は米朝戦争が始まるという情勢ではない。

 また、日本政府が地方自治体と計画していたのは、軍事的行動ではなく有事に際しての避難訓練にすぎない。訓練中止について、菅義偉官房長官は「米朝会談の成果の上に立ち、住民参加型の訓練実施は見合わせる」と説明した。

 政府は北朝鮮のミサイル発射実験の可能性低下や日朝首脳会談実現への環境醸成を念頭に置いているようだが、見当違いの判断である。

 世界の主要国では、国家防衛面での危機に備えた法制や態勢が整備されている。大規模自然災害にもこれで対応している。国家防衛面での危機は国土全域に波及するが、大規模自然災害は国土の一部だけに発生する。従って、国家防衛に関する法制・態勢で十分だからである。

 わが国には憲法に緊急事態条項がなく、その結果として国家が直面する緊急事態に対応する法制・態勢もない。自民党が2012年に発表した憲法改正草案には、外部からの武力攻撃を想定した緊急事態条項がある。

 だが今年3月の改憲条文案には、緊急事態に武力攻撃や大規模テロなどは含まれず、自然災害だけの規定に矮小化された。私権を制限するための規定も見送られた。

 国家防衛絡みの国民の避難訓練自体は憲法上の裏付けがなくても実施可能である。しかし、これまでは国家有事を想定しての訓練等は全く行われてこなかった。

 近年、北朝鮮の発射実験で弾道ミサイルが日本近海に頻繁に落下し、中には日本上空を飛翔するものもあった。これを契機に、ようやく避難訓練の機運が盛り上がってきた。

 武力攻撃は破壊が目的ではなく、それを通じ相手国民の恐怖心を増す一方、相手政府への信頼感を低下させることが狙いである。自国への攻撃に反撃力がなく、攻撃を受けた際に国民の安全が確保できないような国家に対しては、敵性国家は軍事力で懸案を解決しようとする。

 9条では攻撃防げぬ

 本来ならば対日攻撃を念頭に置いた弾道ミサイル「ノドン」や「テポドン」が実戦配備された時に、国民の避難訓練を実施すべきだったのだ。

 国際社会では「平和」「憲法9条」のお守りは、攻撃や脅しを招きこそすれ、防ぐ効用は皆無である。