目黒女児虐待死、今こそ家庭教育支援法制定を


 東京都目黒区で3月、5歳女児が虐待を受けて死亡した事件で、両親が保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕された。父親は傷害罪ですでに起訴されている。女児はノートに「もうおねがい、ゆるして」と書いていた。実に痛ましい虐待事件だ。問題を抱える家庭を含めて「子育て家庭」への支援策が問われる。

香川で2度の一時保護

 被害女児の母親は2年前に再婚し女児は連れ子だった。香川県に在住中に児童相談所(児相)が2度の一時保護処置を取り、父親は傷害容疑で書類送検(不起訴)されていた。

 昨年12月に目黒区に転居し、香川から連絡を受けた品川児相が今年2月に家庭訪問を行ったが、母親から女児との面会を拒絶されたという。両親は女児に十分な食事を与えず、虐待の発覚を恐れ医師の診察を受けさせずに放置し、女児は低栄養状態で肺炎になって死亡した。

 児相は面会拒絶の段階で、警察に通報し強制的に保護できなかったのか、悔やまれる。ただ児相は児童の保護だけでなく、立ち直りも視野に入れ家族と良好な関係を築くため強制力を使うことを躊躇(ちゅうちょ)しがちだ。また全国の児相が対応した児童虐待の件数は12万件以上(2016年度)に上り、対応力に限界がある。児相の機能強化が必要だ。

 児相と警察との連携の在り方も問われる。児童虐待を発見すれば国民に通告義務があり、それを受け警察が児相に通告した子供の数は昨年1年間で6万人を超える。連携をどの段階から進めていくか、支援の仕組み作りを進めるべきだ。

 何よりも重要なのは早期防止策だ。虐待死をめぐっては、予期しない妊娠で妊婦健診も受けていない事例が目立ち、専門家は「妊娠期から切れ目のない支援が必要」と指摘している。そのため市区町村には「子育て世代包括支援センター」の設置が義務付けられているが、実際に設けているのは全国の3分の1以下の525自治体にとどまっている(昨年3月末)。

 乳幼児健診や新生児訪問などの母子保健事業などで虐待リスクの高い家庭を把握できるよう、市町村の機能強化を急ぐべきだ。また虐待に至らないまでも、子育てに悩んでいたり、「子供の貧困」など困難を抱えていたりする家庭も少なくない。

 そこで注目されているのは熊本県などで制定されている家庭教育支援条例だ。家庭支援の枠組みを作り、子育てサポーターや家庭教育支援員らが各家庭を訪問。また、将来親になる中高生や若者が乳幼児と触れ合う体験を実施して子供への愛や子育ての喜びを実感させている。

 こうした取り組みは、都市化や核家族化などで親たちが身近な人から子育てを学ぶ機会が減っているだけに有効だ。地域住民と力を合わせて家庭教育を支援するのは自治体として当然の責務だろう。

 国は健全育成に責任を

 だが、条例制定は一部自治体に限られている。本来、子供の健全育成や家庭教育支援は政府の責任で進めるべきものだ。国レベルで「家庭教育支援法」を制定し、児童虐待を許さず、子供の健全育成に責任を持つ体制づくりを進めていく時だ。