核と拉致で緊密な対話 渡部恒雄


笹川平和財団上席研究員 渡部恒雄

渡部恒雄

 今回の日米首脳会談では、米朝首脳会談とトランプ政権の保護主義という二つの不確定要素があるため、安倍首相は、トランプ大統領個人への一定の影響力を確保することを優先した。そこに成功したことは評価に値する。ホームランではないが、よく球を選んで四球で塁に出たようなものだ。どこに転ぶか分からない米朝首脳会談前に、北朝鮮の核・ミサイル開発の阻止と拉致問題解決のための緊密な対話を行って合意したことが重要だ。通商問題でも、鉄鋼・アルミへの追加関税の日本への適用除外と引き換えに、日米2国間FTA(自由貿易協定)協議入りを狙っていたが、茂木経済財政・再生相とライトハイザー通商代表部(USTR)代表による「自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議」を合意したことは上手な落とし方だった。日本は追加関税の除外適用を得られなかった代わりに、日米FTAへの圧力を先延ばしし、トランプ大統領との関係も損ねなかった。対北朝鮮でも、通商政策でも、トランプの次の一手は誰も予想できない。最近、ロシアへの追加制裁を表明したヘイリー国連大使が、その事実はないとしてホワイトハウスに梯子(はしご)を外された。日本としては、このようなトランプの「気まぐれ」も計算しながら、緊密な人間関係を維持していくことが合理的だ。「綱渡り」だが、米国自身がトランプという特殊な指導者を選んで「綱渡り」をしているのだから仕方がない。