新春政治座談会 国民意識高揚へ憲法対話を


新春政治座談会 待ったなし!憲法改正(下)

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審査会長の自民が指導力を 馬場
具体的な提案は立党の精神 細野
国民投票を政局に絡めるな 中谷

自民党の改憲案の24条に「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」とある。少子化問題を「国難」と認識しているならば、この条項の議論も必要ではないか。

中谷元

中谷元氏

 中谷 家族というのは社会における最小の基本単位であり、尊重されるし、家族は互いに助け合わなければならない。現に中国やシンガポールの憲法には「親を大切にしなければならない」とか、「子供を育てなければならない」とか書かれている。それは当然のこととして受け止めているが、今の風潮は親子関係断絶とか不倫とか、そういうことを起こしている。そういう意味において、やはり家族が大切であると認識することはごく自然の当たり前のことだ。

 それから、これから介護費とか医療費が非常に莫大になってくる。社会的に助け合うということは大事だがそれには限度があって、ますます国民の負担が大きくなってくる。そういう時にやはり家族でお互いに養育をしたり介護をしたり、できることはやるべきだと思うので、自民党の場合はこういう点で、家族・婚姻等に関する基本原則を定めた。

維新は家族条項についてはどうか。

馬場伸幸

馬場伸幸氏

 馬場 憲法というものにいわゆる個人の信条・思想を入れるべきかどうかという議論は必要だと思う。親を大切にするとか子供を育てていくとかは、私としては当たり前の話だと思う。中谷さんがおっしゃったように、アジアの方ではそういうことを書いてあるところもあるが、ヨーロッパではそういう個人の信条・思想というのは全く書いていないというのが多い。そこは憲法がどういうものかということをもうちょっと深堀りする必要があるのではないかと思う。

細野議員は。

 細野 (家族条項については)私も馬場さんと全く同じ意見で、家族は大事にすべきだということについては全く賛成だが、問題は憲法に書くかどうかということ。一から書くならこういう議論はいろいろあって良いと思うが、既存の憲法があって、国民が憲法改正の議論をする前に、10項目も20項目もあったら判断できないのではないかと思う。それをどう絞り込むかという議論の中で言うと、やや無理があると思う。

細野豪志

細野豪志氏

 現実的な議論通じ取り組め

公明党は改憲勢力と位置付けられている中で、少し慎重でもある。これまで有事法制やPKO(国連平和維持活動)法、平和安全法制でも、最初は難しい姿勢を示しても最終的には付いてきている印象もあるが。

 中谷 これはそれぞれの政党が判断することだが、これだけ世の中が憲法改正について関心を持っているし、また野党の方でも現実的な案を党内で真剣に具体的に議論している。憲法改正については現実的な議論を通じて取り組んでいくべきであるし、国民の期待に応える意味でも、憲法改正を実現しなければならないので、しっかりとよく話し合いをしたいと思う。

維新の改憲案はいつ頃までにまとめる予定か。

 場 維新は先ほど申し上げた教育無償化、統治機構の改革、憲法裁判所の設置の3項目はいつでも憲法審査会に提出できる状態にある。また優先度が高いのは憲法9条の話だと思うので、それについて議論し終われば、わが党としてはすぐに改憲論議に入っていけるという状態だ。

それはいつ頃終わりそうか。

 馬場 憲法審査会の進捗状況を見ながら進めていく。私は国会に送っていただいた5年のほとんどの期間、憲法審査会に在籍させていただいているが、1条から103条までレビューばかりしている。もうぼちぼち個別具体の議論に入っていくべきで、そこは憲法審査会の会長を輩出している自民党さんがリーダーシップを取ってやっていただけたらなと思う。

希望の党はどうか。

 細野 まだできたばかりの政党なので議論はスタートしたところだが、非常に精力的に取り組んでいる。また議員の出席も非常に良く、すでに地方自治の条文についてはある程度のものはできているし、教育や緊急事態も含め解散権の問題や知る権利についても議論した方が良いのではないかという意見もある。一番難しいのは自衛隊・自衛権ということになるが、そこは一つ一つ前に進めていきたい。党として提案する場合はできるだけしっかりと条文化することが重要だと思う。

 私は今、憲法調査会の会長をしているが、希望の党として憲法改正について具体的に提案するというのは立党の精神だと思っている。希望の党に入っている方はそれを承知で入っているので、着実にそれをしっかりと形にしていきたい。

 あとは自民党の皆さんにぜひお願いしたいのは、合区の問題も含めて、どういった項目にするのか。それはわれわれも提案するし、維新の皆さんも提案されるし、公明党さんもどういう考えなのか見極めた上で、できるだけ合意が得られるように柔軟な努力をしていただきたいと思う。憲法改正というのは国家的な大事業だ。

 国民の観点で発議項目絞れ

発議に漕(こ)ぎ着けても国民投票で一回仮に否決されてしまうと、次また同じ項目で国民投票にかけても賛成してもらえるのはなかなか難しい可能性もある。そのため、あまり多くの項目でなく、幾つかに絞って国民投票にかけていくことになるのではないかと思うが、国民投票法では国会発議後60日から180日の間に国民投票を行うことになっており、発議してからあまり時間がない。各党では、国民の意識を高めてもらうための運動をどういうふうに取り組んでいくか。

 馬場 これはわれわれだけが経験をしたが、大阪都構想の住民投票は直接民主主義だ。一地域に限られた直接民主主義だったが、おっしゃるように国民投票というのは日本国全体で直接民主主義を一回やってみようということなので非常に難しいと思う。

 国会の発議が3分の2でできるということは、国民の側からすれば何の関心もないこと。その憲法が変われば自分たちの暮らしや自分たちの地域がどういうふうに変わるのかという興味は持ってもらえる。しかし、先ほど合区の話があり、中谷先生には申し訳ないが、参議院議員が県から一人も出ていないということに危機感を持っている国民は一人もいないと思う。実際には衆議院議員もいて首長もいる。そういう観点でこの発議を考えると失敗すると私は思う。国民が最終的に決めることなので、国民生活や地域にどういう影響を与えるかということを憲法審査会の場でじっくり議論して、それを国民に聞いていただくということが一番大事だと思う。

 発議の項目についても国民の側からの観点で絞り込みをしていかないといけない。国会の議論を聞いていると、「国会議員が憲法を改正するんだ」という感じの議員も実際にいるので、そこは考え方を改めて、違う観点、逆の観点からの憲法議論をしていかないと成就しないのではないかと思う。

 細野 大阪都構想を経験されて非常に実感がこもって話されたので、その通りだなと思った。条文化がある程度できた段階で、きちんと対話をすべきだと思う。というのは、憲法改正で「地方自治です」「教育です」と言っても、正直それほど反応は返ってこない。ただ私が去年の4月に憲法改正試案を出した後、説明をしてくれとか、それを説明をした後の反応というのは結構返ってきた。だから条文化がある程度見えてきた段階で、発議の前に各党が憲法対話をすべきだと思う。そういう中で、発議をして本当に国民の理解を得られる項目と、なかなか難しいのではないかという項目と、場合によっては判断も必要かもしれない。

 国民はそれぞれ日常生活もあればご家族もあり、いつも憲法のことばかり考えているわけではない。そういう中で本当にやるというときは、しっかり条文化して、それを皆さんと対話をする中で、最終的に国民との共同作業として改正をしていくということでないとうまくいかないと思う。

 中谷 国民投票は国防や自衛隊については特に失敗は許されないわけで、これはきちんと説明をして、政局とか政権の浮揚とか、人気投票に絡めては絶対にいけないと思う。純粋に政策マターとして自衛隊をどうするのかということをきちんと説明して、反対の人の意見もきちんと説明をして、両方が政策的に見えるような形で国民投票にかけられるように、そのプロセスや質問の仕方を詰めていかなければならない。提案する側においてもしっかりと詰めて、失敗がないような国民投票にしていきたいと思う。

外国では平成27年1月現在、改憲数が米国6回、ドイツ60回などタブーを恐れず、その時代に合った改正作業を行ってきている。わが国には「待ったなし」の改憲項目が幾つもあるので、与野党が改憲発議を目指しさらに真剣に取り組んでもらいたい。本日は、ありがとうございました。